唾液採取と分析が困難とされた口腔乾燥症を伴う唾液腺疾患患者から、マイクロキャピラリー(1mul)を用いて、唾液を採取後、二次元電気泳動による分析を行なった結果、シェ-グレン症候群患者(SS)唾液の二次元パターンに顕著な変化を見出だした(Archs oral Biol.1993)。この変化は、IgG、分泌型IgAの増大を示した。また、SSが自己免疫疾患といわれていることから、免疫応答の指標として用いられる、beta_2マイクログロブリン(beta_2MG)を、酵素免疫測定法(EIA)で定量し、他の唾液腺疾患患者との比較検討を行なった。 研究方法:二次元電気泳動法、EIAは、既報に準じた。 結果:耳下腺炎、顎下腺炎患者唾液では、健常者唾液中のbeta_2MGと同程度の値を示した。しかし、SSでは、耳下腺唾液、顎・舌下腺唾液共に、約7倍も高値のbeta_2MGが唾液中に存在することを確認した。全唾液中のbeta_2MGがSSで増加するとの報告はあるが、耳下腺唾液と顎・舌下腺唾液を別々にしかも、ごく微量の腺唾液(1mul)のみで、beta_2MGが高値を示すのを明らかにしたのは、これが初めてである。SS唾液の二次元ゲルパターンではbeta_2MGの同定はできなかったので、さらにWestern blotを行い、抗体染色を行なった結果、SS唾液中にbeta_2MGが重合しない12KDaの単量体で高濃度存在することを明らかにした。以上の結果は、唾液の二次元解析および、EIAによるbeta_2MGの定量が、ヒトの唾液タンパク質の分析に有効であり、特にSSの唾液分析は炎症性疾患の場合とで顕著な差を示した。以上の結果、本実験は、唾液腺疾患の病態究明の新たな実験系として有用なものと考えた。本研究の一部は、歯科基礎医学会総会(歯基礎誌、35、216、1993)および、Archs.Oral.Biol(38、1135、1993)に報告した。
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