実験には8週齢雄性SD系ラットを用い、その口蓋粘膜を切除後、10日、2週、3週、4週に形成された瘢痕組織について検討を加えた。まず組織を10%ホルムアルデヒドで固定し、EDTAにて脱灰後、パラフィン切片を作製した。その後、抗デスミン抗体による免疫組織染色を行い、瘢痕組織の線維芽細胞におけるデスミンの発現の有無を検討した。その結果、血管平滑筋および将来血管壁を構成するであろう幼弱な組織の細胞にはデスミンの発現は認められたが、瘢痕組織中の線維芽細胞には認められなかった。また、切除後4週経過した瘢痕組織より分離培養した線維芽細胞にも同抗体による染色を行ったが、こちらもデスミンの発現は認められなかった。 次に、正常粘膜から分離培養した線維芽細胞を用いて、TGF-beta1およびPDGFを作用させ、ロ-ダミンファロイジン染色により、ストレスファイバーなどアクチン系細胞骨格の変化を観察した。その結果、TGF-beta1ではほとんど変化がみられなかったが、PDGFでは細胞形態が変化し、ストレスファイバーの増加が認められた。DNAsel活性阻害法においても同様にPDGFによるアクチン重合度の上昇が認められた。しかし、ノーザンブロット分析では、TGF-beta1によるbetaおよびgammaアクチンのmRNAレベルでの上昇が認められたが、PDGFを作用させても変化は認められなかった。 以上のことより、瘢痕組織中および瘢痕組織由来の線維芽細胞では、アクチン系細胞骨格に特異的変化が認められたものの、中間径線維、特にデスミンに関しては変化が認められなかった。また、アクチン系細胞骨格の特異的変化の発現機序についても、単一因子ではなく複数の因子が関与していることが示唆された。
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