研究概要 |
コールターカウンターを利用して,Porphyromonas gingivalisの産生する赤血球凝集因子(HA)による赤血球凝集反応を経時的に測定したところ,以下のような結果を得た。 1.凝集は約1.5時間後に最大に達し,その後凝集の崩壊が見られた。この現象は単なる溶血の影響とは考えられず,レセプターの破壊が起こっていると考えられた。2.HAを阻害するアルギニンの存在下で,同様に経時反応を測定したところ,意外にも初期反応では,活性化が,中期で阻害,さらに後期では凝集崩壊の阻害による見かけ上の活性化が認められた。さらに意外なことには,アルギニンとHA標品をプレインキュベートすることにより,BApNA分解活性のactivateが観察された。3.HA阻害を示すアルギニン含有ペプチド(インスリンB:トリプシン様酵素の基質となりうる)を利用して,酵素基質反応速度理論に基づく解析を行ったところ,中期反応ではその阻害形式が競合阻害であることが判明した。4.本研究で使用したHA標品はアルギニンデイミナーゼ活性を示し,同群の他の酵素である,オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ,およびカルバミルカイネース活性は認められなかった(ただし菌体には相当量存在した)。アルギニンのかわりにシトルリンを用いると終始活性のactivateが起こった。これらの結果と以前の報告から以下のような結論を得た。P.gingivalisによる赤血球凝集反応は,トリプシン様酵素とレセプターとの酵素-基質複合体の形成によって引き起こされている可能性が高く,この反応に先立ち,アルギニンが関与し得る未知の反応が存在している。さらにトリプシン様酵素ないしアルギニンデイミナーゼは受容体破壊酵素として働いており,膜蛋白の機能に何らかの影響を与えているのではないかと考えられた。
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