我々は、古細菌に属する高度好塩菌が動物細胞においてみられる抗癌剤に対する耐性機構を獲得し、その耐性機構が特殊な輸送担体を介した能動的排出によることを明らかにした。この排出は、Ca^<2+>拮抗薬により阻害されるなど、ヒトのP-糖蛋白に近い性質を有している。更に、能動的排出に利用されるエネルギーの検討を行ったところ、排出活性は細胞内ATPを非常に良く相関した。ATPの加水分解エネルギーを用いて排出を行っていることが示唆された。この抗癌剤排出蛋白をより詳細に検討をこなうため精製を行った。 先ず、野生株及び耐性株を大量培養し、膜蛋白の検討を行った。SDS電気泳動パターンより、90KDa付近に耐性株特異的に多量発現している膜蛋白の存在が確認された。また、抗ヒトP-糖蛋白マウス・モノクローナル抗体(JSB-1)を用いたウェスタンブロットを行った。この結果、JSB-1はこの90KDaを特異的に認識した。ヒトのP-糖蛋白マウス・モノクローナル抗体(JSB-1)を用いたウェスタンブロットを行った。この結果、JSB-1はこの90KDaを特異的に認識した。ヒトのP-糖蛋白と比べて好塩菌の排出蛋白の分子量は約半分の値を示す。ヒトP-糖蛋白は、左右対照の構造をとっており、半分で排出機能を有していることは、大変興味深い。また。JSB-1で認識することより、好塩菌に存在する抗癌剤排出蛋白は、ヒトP-糖蛋白に近い構造を有していることが示唆される。この知見は、P-糖蛋白のルーツの考察に寄与すると考えられる。 現在、オクチルグリコシドを用いて膜分画を可溶化し、この抗体との結合を指標として用いて精製を試みている。 来年度は、本バクテリアに於て発現しているであろうP-糖蛋白類似輸送担体を同定分離精製を行い、物理化学的および分子生物学的観点からこの蛋白を研究する。この実験結果に基づいて抗癌剤排出のメカニズム(エネルギー変換機構)を詳細に検討してゆくつもりである。
|