私は、大環状化合物の持つユニークな性質を生かして、最高の効率、選択性、反応制御機構を有する人工酵素分子を創造することを目標としている。本研究により、簡単な構造を持つ新規大環状ポリアミン亜鉛錯体がリン酸エステルやカルボン酸エステルの加水分解反応を触媒的に促進する機能を持つことを世界ではじめて見い出した。さらに、本研究成果は、アルカリフォスファターゼの機能発現に必要なセリン残基(水酸基)の必然性や、亜鉛酵素中の亜鉛イオンの存在意義について様々な科学的根拠を与えた。このようなアプローチは、大環状化合物の化学修飾の容易性やそれら錯体の安定性をして初めて可能となるものである。これまでの医薬品は、阻害剤として働くものや、生体分子に非可逆的ダメ-ジを与える化合物(例 ブレオマイシンなどの活性酸素発生剤)がほとんどであった。一方、本研究は、加水分解という可逆な反応を利用した全く新しいタイプの制がん剤や遺伝子制御試薬の開発につながるものである。今後、生体分子選択的切断試薬としての実用化を目指したい。本研究から得られた新しい化学的知見は、医薬品化学などの応用研究にも大きなインパクトを与えると信ずる。
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