遺伝子治療を行うためには、安全で高率の高い遺伝子導入ベクターの開発が不可欠である。現在遺伝子治療の臨床実験に使われているマウスのレトロウイルスベクターの力価は10^4-10^6 cfu/mlであるが、実際に遺伝子治療を効果的に行うためには10^9 cfu/ml以上の力価が必要といわれている。レトロウイルスは物理的不安定で遠心や濾過で活性のあるウイルス粒子を濃縮する事が不可能であるため、高力価の組換えウイルス産生系の確立は必須である。そのため、本年度はヒト葉酸脱水素酵素(DHFR)遺伝子を用いた遺伝子増幅による高力価組換えウイルス産生糸の確立を試みた。すなわち、これまでのDHFR遺伝子を用いた遺伝子増幅に関する我々の研究成果に基づき、CHO細胞にパッケージングプラスミドをDHFR遺伝子と共に導入し、遺伝子増幅を行い、大量の中空ウイルス粒子を作る細胞株の樹立し、それを用いて組換えレトロウイルスベクターの産生することを試みた。 具体的には、CHO細胞にパッケージングプラスミドとDHFR遺伝子を共に導入し、メソトレキセートを用いて遺伝子増幅を行った後、その細胞株にネオマイシン耐性遺伝子を持つベクタープラスミドを導入した。組換えウイルスを含むと思われる培養上清を用いて標的細胞に遺伝子導入を試みたが、ネオマイシン耐性遺伝子は全く導入されなかった。種々の解析の結果ではパッケージングの段階がうまくいっていない可能性が高かった。今後さらにCHO細胞によるシステムの問題点の解析を進めると共に、COS細胞など他の細胞を用いた遺伝子増幅系による高力価ウイルスベクター産生系の開発も試みる予定である。
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