脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)の脳卒中前後の行動は、脳血管性痴呆患者のそれと良く一致する。老年性痴呆患者の脳内ビタミンB_<12>含量とアセチルコチン(ACh)含量はアルツハイマー型にせよ脳血管性痴呆にせよ低値であることが最近報告された。SHRSPの記憶障害ならびに学習機能障害を受動的回避反応(passive avoidance response)により測定しメチルコバラミン(CH_3-B_<12>)慢性投与の効果を検討した。同時に脳内ACh濃度の測定を行った。さらにCH_3-B_<12>投与によるSHRSPの生物リズム障害に対する影響も検討した。実験には雄性のSHRSPおよび正常血圧のウィスター京都らっと(WKY)を使用した。CH_3-B_<12>は固形飼料に混合し、2mg/kg/dayとなるように慢性投与した。受動的回避反応はステップスルー型の装置を用い7日目まで観察した。ACh濃度はHPLC-EDCにより測定した。生物リズムに対する検討には自発運動自動記録装置を用い、得られたデータをパワースペクトル分析した。受動的回避反応において無投与のSHRSPは記憶の保持に障害があることが示されたがCH_3-B_<12>を投与したSHRSPは正常なWKYと同様に記憶の保持機能の障害は認められなかった。脳内ACh濃度は記憶機能を司る大脳皮質、生物時計が存在する視交叉上核を含む視床下部において無投与SHRSPでは低下していたが、CH_3-B_<12>投与によってACh含量が上昇した。SHRSPは明暗の脱同調を含む生物リズム障害を発現したが、CH_3-B_<12>の投与により有意に改善された。SHRSPは記憶障害および生物リズム障害を示したが、これらの症状はいずれもCH_3-B_<12>の投与により有意に改善された。詳細な作用機序はいまだ不明であるがCH_3-B_<12>およびAChが深く関与していることが示唆された。
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