研究概要 |
近年のバイオ技術の発達に伴い,医療の場においても生命活動そのものを分子レベルでとらえようとする気運が著しく高まりつつある。分子レベルでの解析を行うには,生命活動に働く生体内の微量因子のひとつひとつをより完全な状態で取り出すといった操作が不可欠であり,効率が良く汎用性のある新たな分離精製法を開発することは最も必要性の高い問題の一つである。 本研究では温度変化に依存して,水に対する溶解度が極めて鋭敏かつ可逆的に変化すると言ったユニークな性質を持つ高分子ポリマー(温度感受性ポリマー)並びにその誘導体を新規に開発し,分離担体として応用することによって,単に,温度変化を行うだけで,様々な生体微量因子を他の物質中から温和な条件のもと個々に分離精製することが可能な方法の開発を行った。その結果,以下のような成果を見出すことができた。 1.無水条件下,N-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸グリシジルをアゾビスイソブチロニトリルを用いて共重合させることにより,温度感受性ポリマーの誘導体を新規に開発した。本誘導体は,32℃を境にして,H_2Oに対する溶解性が激変する性質(温度感受性)並びにアミノ基を持った物質との結合性を併せ持っていた。 2.本誘導体に,p-アミノフェニルホスホリルコリン(CRP)をアフィニティリガンドとして結合させ(APPC結合ポリマー),これをウサギ炎症血からのC反応性蛋白質(CRP)の分離精製に用いた。Ca^<2+>存在下,ウサギ炎症血とAPPC結合ポリマーとを反応させたところ,CRPはこのポリマーに特異的に結合し,32℃以上に反応液温度を上昇させることによって,ポリマーと共沈した。 3.遠心によって回収したポリマーから,EDTAを用いてCRPを回収したところ,混入物質のない精製CRPを80%以上の回収率で得ることができた。加えて,ポリマーへのCRPの結合度は,両者の濃度にそれぞれ依存することも判明した。 以上の研究成果の詳細は取りまとめ,論文にて発表した。
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