感性に訴える新しい布の風合いを、特に表面特性のおもしろさからモデル的に構築することを試みた。主題として「鳩の羽のもつすべるような、かつ光沢のある表面」、「しいたけのかさの裏側の凹凸感」「岩石のざらざらした細かい充実感のある凹凸」を定めた。実際、鳩の羽、しいたけ、岩石の視覚、触覚によって20名の女子大学生が主観評価し、特徴を表現するイメージ形容詞を選び、SD法による官能検査を行った。次に布の試料集団から、イメージ形容詞を特に表現していると思われる布を各主題につき5から6枚づつ選びだし、KES-SE-S摩擦感テスターによって表面の平均摩擦係数、摩擦係数の平均偏差を調べた。また試作の摩擦試験機によって皮膚とこれらの布間の摩擦特性も調べた。布に触れた時の風合いに関連する布の力学的性質は、KES-FBシステムを用いて測定し、基本力学量を算出した。 布の主観評価と主題との関係をみると、まず鳩の羽のもつイメージは、新合繊のフィラメント使いで、表面を起毛した布で比較的表現できるが、羽にさわった時のしっとり感は、表現がむずかしかった。同じ凹凸でもしいたけのような比較的規則正しい凹凸感と岩石表面の細かい凹凸では、人が触れた時の印象がかなり異なり、単なる布表面の凹凸だけでは表現できなかった。凹凸感の評価に関しては、皮膚と布の間の摩擦係数の特性値化、並びに官能値との関係を検討した。そして布に触れる時の圧力が凹凸感に及ぼす影響、また皮膚との付着の有無が摩擦係数に及ぼす影響が明らかとなった。主観評価をもとに、布の客観的データを組み合わせて、主題に近い特性をシュミレートした。しかし、繊維、糸の太さ、布の構造など布を構成する上で必要な細部のパラメターの検討を合わせて風合い設計にもちこむところまでには至らなかった。
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