本研究の目的は車いす競技者の運動処方やトレーニング処方を呼吸循環器系の反応を中心に系統立てようとするものである。世界的に車いすマラソン競技は注目され、その競技者のレベルが年々向上している。しかも、競技スポーツ仕様の車いすに関する研究は、メカニカルな組み合わせや材質に集中するようになってきている。しかし、運動生理学的分析を用いたトレーニング処方が少ないことが、競技を安全に実施する時に大きな障害となっている。今回は初心者が参加することを想定し、車いすマラソン競技を希望する学生を被験者として測定を実施した。被験者は21歳学生(第12胸椎脱臼骨折脊髄損傷による両下肢の機能全廃)であり、普段は生活用車いすで移動をしている。次年度からのトレーニング効果に関する研究を考慮して、意図的に競技の為のトレーニングを負荷しない状況を設定した。車いすマラソン競技として抽出した10kmから42.195km(実際の競技時間は、30分48秒から2時間46分)までの10回の車いす競技に参加した結果、走行中の心拍数は平均173.2±2.9拍/分であった。この競技者の実験室でのピーク心拍数は201拍/分(トラックにおける12分間走トライアル中の心拍数は189.5拍/分)であったことから、走行中は86.2%HRmaxの運動強度で進退運動を実施していた。車いす運動を全身運動としてとして評価しているが、局所運動としての腕運動の評価も今後の課題となる。一般道路を使用して実施される競技は、高低差を分析条件として加えなければならないため、距離だけを単純に比較することは問題がある。しかし、同一競技会に2度目の参加をした場合、6.2%の記録の向上が認められたが、有意な差は認められずほぼ同程度の体力を維持し続けたことが推定される。同時に測定した皮膚温の変化を分析すると、高温環境下での運動においては、一般市民ランナーに対する注意と同じ方法で対処できるが、低温環境下においては、環境温に機能を失っている脚の温度が接近していき、今後の課題として、脚抹消循環の体温低下による全身運動への影響を検討する必要があろう。
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