Smith(1970)によれば、貨物流動のOD行列に多変量解析を適用する目的は、輸送パターンの構造を解明することにある。しかし、Davies(1984)が指摘するように、OD行列特有の正規性や線形性からの逸脱が因子分析などの適用を困難にする。今日の輸送費や輸送距離の概念の変化は公錯輸送を増加させ、宅配便やJust in Time方式の発展による短距離配送・新たな工業立地や生鮮食糧品のための長距離輸送・輸出入貨物の国内中継などの、一層の輸送の複雑化を招いている。そこで、因子分析を適用しても、因子が抽出できなかったり、因子の解釈が困難になることが多い。そこで、当初の方針を変更し、一度データを変えて、研究方法を模索することとした。具体的には1990年の日本道路公団のOD行列に多次元尺度構成法(ALSCAL)とクラスター分析の適用を試みた。その結果、各輸送品目について、三大都市圏と、南東北・関東内陸などの新しく工業化が進行している地域と、北海道・山陰・四国など高速道路のネットワーク上で疎であり孤立的な地域といったパターンが認められた。この分析のためには、従来から用いてきたSPSS-XからSASに転換する必要があった。新潟大学にはSASが設置されていないので、東大のセンターを利用した。そのため、東大のJCLについて一から習得しなければならなかった。今後の課題としては、OD行列に正準相関分析を適用して、地域間の輸送品目や輸送手段との関係を分析してみたい。また運輸省地域貨物流動調査の磁気テープからは、大量にクロス集計の結果を求めた。これらのデータも地図上での分布の確認が可能である。以上の成果について、できる限り早くレフエリー制を有する全国学会誌に投稿する予定である。しかし、研究者自身として、OD行列に多変量解析を応用することは、もともとのデータの質に大きな影響を受けるから、対症療法的な次善の策といった感触を否めなかった。そのため、海外のレギュラシオン理論とそのJust in Timeに関する経済地理学文献を渉猟・展望し、産業構造の転換を視野に入れて貨物流動の構造の理解に努めている。
|