研究計画書に延べた研究の手順に従って、研究補助金を受け実施した研究の実績は次のようである。 1)公共施設の立地をめぐる従来の諸研究の展望 まず、欧米諸国における公共サービスの施設立地に関する理論的研究を展望した。医療施設は、先進国では民営化の進展によって閉鎖や統廃合が行われたが、それは富裕層の居住地区よりも貧困層居住地区で閉鎖が多かった。それゆえ、外部性といったミクロな要因よりも国全体の社会経済的な要素が近年の医療施設立地に大きく影響していることが明らかとなった。そしてその中で、どの医療施設が閉鎖されるかを規定する要因として、地域の社会環境が影響を与えるという見解が一般的である。 2)公共サービス水準の全国的な動向の把握 全国レベルにおける医療サービスの水準をいくつかの指標によって把握し、これを都道府県別の地図に図化した。これは、おもに厚生省に『医療施設調査』のデータを基にして行なった。また、日本の医療サービスの動向を他の先進諸国と比較して位置づけを明確にするために、制度面やサービス水準の国際比較も試みた。 3)施設立地を規定する要因の考察 施設立地をよりミクロなレベルで考察するために、まず、上の2)に図化した都道府県別の医療サービス水準の図から典型的と思われる地域として、5つの県を取り上げて詳しく検討することとした。それは、北海道、山形県、千葉県、愛知県、高知県である。5つの県の病院の立地について1956年から1988年に至る病院の立地変動をデータベースにした。さらにこれを、都市化の進展と関連させて考察するため、DID地区との関連をも考察した。これに加えて、いくつかの病院(おもに精神病院)において聞き取り調査を実施して、病院立地の経緯や周辺住民との関係についても検討した。 今後の課題 医療施設として病院を取り上げたが、より身近な診療所を考察する必要も大きいという指摘もあるので、診療所のデータについても今後は分析を進めていきたい。さらに、老人医療の問題が近年の医療政策で焦眉の問題となっているため、これに的を絞った考察の必要も大きい。一方、精神病院・診療所の立地はきわめて地理的な問題であり、地域社会と施設立地との関連性を考察する必要もある。
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