研究概要 |
東北日本の第四紀海岸段丘堆積物(上北平野・男鹿半島・能登半島)より採取した軟体動物化石のアミノ酸分析を行い,これまで不確定部分のあった海岸段丘の相対年代を推定し,段丘形成時の古環境の変遷について検討した。緯度・経度・高度のポジショニングはGPS受信機にて行った。 1)各地域において,最終間氷期最盛期(酸素同位対サブステージ5e,12.5万年前)に同定された段丘よりひとつ高位にある段丘は,ひとつ前の間氷期(ステージ7,20万年前)に,またふたつ高位にある段丘はふたつ前の間氷期(ステージ9,30万年前)に位置づけられる可能性が高い。 2)アミノ酸生成の化学反応成過程が温度に依存しながら進行してきたとするキネマティクスを仮定すると,最終間氷期最盛期(サブステージ5e)の頃には東北日本の日本海側の海水環境は,現在のそれらより温度にして数度高かったことが推定される。またステージ7よりステージ9のほうが暖かかった,すなわち海進規模が大きかったらしい。 3)緯度方向での温度差については,最終間氷期最盛期(サブステージ5e)の頃にかぎってみれば,北緯40°と北緯37°ではおよそ3度前後の差が算定される。 以上の成果に基づくと,この方法は中期更新世以降の海岸段丘の編年と古環境復元に有効であり,試料を広域に採取するという単純な作業によって,日本列島の環境変遷をより具体的に論じる材料を提供できる発展性があることがわかった。
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