最近、環状ADPリボース(c ADPribose)と呼ばれる環状の核酸分子が糖尿病の発症を左右する膵臓のインシュリンを放出する能力に深く関係していることが明らかにされた。環状ADPリボースは細胞内でカルシウムイオンの貯蔵庫の役割をしているミクロソームに作用して、カルシウムイオンを放出させる働きがある。本研究ではこの環状ADPリボースを化学合成するために必須な新しい1一N一グリコシル反応を開発した。 すなわち、糖水酸基をシリル系の保護基で保護し、N^6位をベンゾイル基で保護したアデノシンを用いて1位以外の水酸基を保護したリボースの1一トシラート誘導体による相間移動触媒反応系により1一N一リボシル化反応を試みたところ、選択的に反応が1一N位でおこることを見い出すことができた。この反応はN^6位の保護基を変えると1一N位に置換反応がおこることもわかった。したがって、本反応は、目的に応じてN^6位あるいは1一N位に選択的にリボシル化反応できる有用な一般的合成反応である。とくに、生体内にはN^6位がリボシル化されたアデノシン誘導体も見い出されていることから、そのような合成反応にも用いることができるものと思われ、別途研究を発展させているところである。一方、天然から得られた環状ADPリボースのNMR解析を詳細に行ったところ、リボシル化の位置は当初報告されていたN^6位ではなく1一Nであり、リボースはbeta位に結合していることが強く示唆された結果を得た。この結果に基づき現在、環状ADPリボースの最終構築反応を検討している。
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