研究概要 |
ショウジョウバエの性決定に関与する遺伝子としてSxl,Tra,Tra2,およびdsxが知られている.これらの遺伝子産物は,RNA結合蛋白質として働きカスケードを形成し,性決定に関与するmRNAのスプライシングを調節することにより,ショウジョウバエの性決定を行っている.これらの因子は,いずれもRNA結合蛋白質ではあるが,その作用の様式は異なっている.同様なRNA結合活性をもつこれらの因子の作用機序の違いを理解するために,これらの因子と,結合するRNAとの相互作用を解明することが必要である.本研究では,Sxl遺伝子産物に現れる2個のRNA結合ドメインのうちアミノ酸96残基からなる二番目の部分について遺伝子上で切り出し,その大量発現系の構築を行った.この発現系を用いることにより,^<15>N,^<13>Cによって二重標識した試料を作成し,NMR法による高次構造解析を行った.これにより,今回扱ったRNA結合ドメインは,4本のbetaストランドからなる逆平行betaシート構造とこれを裏打ちする2本のalphaヘリックス構造で構成されることがわかった.今回,解析を行ったSxl遺伝子産物のRNA結合ドメインは,従来U1AやhnRNP Cで見られたRNA結合ドメインと構造のモチーフが類似しているが,2本目と3本目のbetaストランドを繋ぐループ部分のアミノ酸の種類および長さに違いがあり,この部分が結合するRNA分子の認識の違いに重要な役割を果たしていることが示唆された.次に,このRNA結合ドメインに結合すると考えられる配列のRNAを合成し,これを加えた場合のスペクトルの変化からRNA分子の結合部位の類推を行った.この実験からRNA分子は,betaストランドが溶液に露出している部分で相互作用を行っていることが明らかになった.この相互作用は,結合配列と異なる配列のRNA分子では,起こらず特異的な結合の結果起こったものであることがわかった.
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