私はすでに、ヒトでは腫瘍関連抗原と考えられるN-グリコリルノイラミン酸(H-D抗原)の合成を司るCMP-NeuAc水酸化酵素を同定し、マウス肝臓より精製した。本研究では、ヒト腫瘍におけるH-D抗原の発現機序を分子生物学的に明らかにすることを目的した。 (1)CMP-NeuAc水酸化酵素のcDNAクローニング 本酵素の精製標品をリシルエンドペプチダーゼで限界分解し、得られたペプチドについてアミノ酸配列を決定した。その情報を基に合成したプライマーDNAを用い、PCR(polymerase chain reaction)を行い、本酵素のcDNAの一部を増幅し、塩基配列を決定した。その情報を基にRACE(rapid amplification of cDNA end)法によってcDNAの全長を増幅した。得られた塩基配列より、本cDNAクローンは約1.7kbpの翻訳領域を持ち、精製酵素の分子量と一致する約65kDaのタンパク質をコードしていた。本cDNAを発現ベクターにつなぎ、COS-1細胞に導入すると、細胞の持つNeuGcの比率が増大することを確認した。また、ノーザンブロット解析によって、マウスの各臓器におけるNeuGcの発現と本酵素のmRNAの発現には相関があることが判明した。 (2)ヒト腫瘍細胞における本酵素の発現 ヒトゲノムを用いたサザンブロット解析においてマウスの遺伝子と非常に相同性が高いと思われるバンドが検出された。しかし、ヒト癌細胞を用いたノーザンブロット解析では本酵素のmRNAは検出されなかった。恐らく発現量が極く微量であると思われる。ヌードマウスに移植したヒト腫瘍細胞においてはH-D抗原の増大が見られるので、現在移植実験の再検討及びより感度の良い検出法としてPCRを検討している。
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