研究概要 |
当初計画したように、「HL-60細胞の分化に特異的なNADaseの実体」を解明することができ、非常に興味ある新しい知見が多々得られた。この成果は(J.Biol.Chem.,268,16895-16898,1993)に公表された。 前骨髄球性白血病細胞株HL-60細胞で、ビタミンAの誘導体であるレチノイン酸(RA)により特異的に発現誘導されるNADase(NAD glycohydrolase)が活性部位を細胞外に向けているエクトエンザイムであること、代謝産物であるADP-リボースにより細胞の分化誘導が促進されることを我々のグループは見い出していた。本研究では、これらの生理的役割を明らかにするために本酵素活性を担う分子の同定を行った。その結果、1.本NADaseはヒトリンパ球表面抗原CD38分子であること、2.CD38分子内の活性を担う領域は、N末端近傍の細胞内領域及び膜貫通領域は必要無く細胞外領域だけで十分であること、3.CD38遺伝子発現は、ホルボルエステル(PMA),ジメチルスルホキシド(DMSO)やジブチリルcAMPによっては誘導されず、RAによってのみ特異的に誘導されることを明らかにした。興味深いことに、海産動物のアメフラシ(Aplysia)で発見されたNADを基質にニコチンアミドと環状ADP-リボースを産生する酵素(ADP-ribosyl cyclase)と上記CD38分子は構造上酷似しており、動物細胞にも環状ADP-リボースをセカンドメッセンジャーとするCa^<2+>放出機構が存在するか否かという新らしく魅力的な問題が浮かび上がった。現在、CD38分子の生理的役割の解明及び環状ADP-リボース合成活性能を有する分子の検索へと研究は展開されている。
|