本研究の目的である、タンパク質内電子移動経路をあらわに計算する方法を開発するために、申請者はFeynmanの経路積分法に注目した。この方法は電子のどの移動経路が重要であるかを直接明らかにする手段であること、量子モンテカルロ法という巧妙な数値算法を用いるため計算が容易であることが主な利点としてあげられる。本研究では分子軌道法で得られたポテンシャルをいかに経路積分法に組み込むかが最大のポイントとなった。 1.量子モンテカルロ法による経路積分計算プログラムは開発済みである。 2.分子軌道法の一種である局所汎関数法はポテンシャルを局所状態密度の形で計算するため、経路積分法と相性が良いこと、大きな系を計算するのに適した方法であることから、これをドナー・アクセプターおよびその周辺のタンパク質の電子状態を計算する量子化学計算法として採用した。 3.局所汎関数法で計算されるポテンシャルを経路積分法に組み込むためのプログラムを作成した。 4.電子移動経路はポテンシャルの形や大きさには鈍感であるが、移動確率はこれらに大変敏感であることがわかった。生体内電子移動過程を正確にシミュレートするためには、蛋白質全体を取り込んだ計算が必須であることが明らかとなった。 5.現在市販されている局所密度汎関数プログラムは蛋白質全体を解くような超巨大計算には向かないため、現在、超巨大計算専用の密度汎関数プログラムを独自に開発中である。
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