カロテノイドは自然界に広く分布する黄-赤色の共役2重結合鎖を持つ疎水性の色素で、ビタミンAの前駆体としてだけでなく、免疫系増強と抗腫瘍の活性を持つ。それらはカロテノイドのプロビタミンA活性か抗酸化作用に基づくものと考えられてきたが、プロビタミンA活性の無いカロテノイドでもそれらの活性が観測できたこと、抗酸化作用と抗腫瘍活性の間に相関が無いことなどから、未知の型のカロテノイドの作用、例えば、膜蛋白に対しての作用などが推測されてきた。光駆動の塩素イオンポンプであるハロロドプシンは膜7回貫通型蛋白質ファミリーに属し、光誘起の構造変化(この構造変化が塩素イオンをポンプする)を分光学的に時間軸上で観測できる。ハロロドプシンを産生する好塩性の古細菌の持つC_<50>カロテノイド(バクテリオルベリン)がこの構造変化を6倍速くし、その機能を促進していることを、変異株を用いた測定とバクテリオルベリンの再構成実験から明らかにいていたので、ハロロドプシンの塩素イオンに対する結合にバクテリオルベリンが及ぼす影響と、バクテリオルベリンの作用が同じ細胞膜領域に存在する他の細菌ロドプシンに与える影響を調べ、そのカロテノイドの作用が特異的なものか否かを調べた。バクテリオルベリンはハロロドプシンの塩素イオンに対する結合力を3倍増加することが塩素イオン添加により生じる吸収変化測定から解った。さらに閃光励起により生じる光中間体の生成量の塩素イオン濃度依存性の測定から、その最大生成量の50%生成量をもたらす塩素イオン濃度もバクテリオルベリンにより約6倍低下し、ハロロドプシンの塩素イオンに対する親和力が増加していることが解った。バクテリオルベリンは、同じ膜領域に存在するセンソリ-ロドプシンの構造変化を加速しなかった。以上の結果は、バクテリオルベリンの作用は、膜の強度を増すことによりハロロドプシンに作用するというような非特異的なものではなく、ハロロドプシンにのみ作用する特異的な作用であり、バクテリオルベリンがハロロドプシン内の塩素イオン結合部位に影響を与えていることを示しており、バクテリオルベリンが遠隔的間接的出はなく、ハロロドプシンの近くに存在し直接特異的に作用をしていることを示唆している。
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