(1)申請者は過去に、マイコプラズマ(Mycoplasma capricolum)のゲノム複製がdnaA遺伝子とその下流に存在するnon-coding領域に相当する1560bpの領域内から開始されることを、neutral/alkalineの2次元電気泳動法を用いて示していた。本研究ではこの1560bpをさらに狭めるために、調べる領域の見直しと、得られた結果の定量的な解析を行った。その結果、複製開始は上記の1560bpの中のdnaAの下流側882bp中で起こっていることが明らかになった。また複製フォークは両方向へ進行するが、dnaA遺伝子の5´側への進行が3´側への進行より遅いことが示された。これらのneutral/alakaline二次元電気泳動の結果に対する解釈は、neutral/alakaline二次元電気泳動法の結果によっても確認された。複製フォークの非対称の進行は過去において大腸菌でも報告されている。しかし解析する系によっては全く非対称性が見られないこともあり、これら結果の不一致は解析法の違いによるものであると見なされて来た。本研究では過去におけるどの系よりも本来の原核生物染色体複製に近い状態を観察しており、上記の論争に一つの決着をもたらしたものと考えられる。 (2)マイコプラズマのdnaA遺伝子を大腸菌中で過剰発現させた。このポリペプチドがATP結合能を有することをクロスリンク法で確認した。またこのペプチドに対する抗体を作製し、マイコプラズマにおけるDnaA蛋白質の検出を試みた。作製した抗体は用いた抗原のみならず、別の構成を持つ発現系から得られたマイコプラズマdnaA由来のポリペプチドにも効率よく結合した。しかしマイコプラズマ細胞由来の蛋白質への結合は認められなかった。このことはマイコプラズマ細胞中におけるDnaA蛋白質の存在量が、大腸菌で報告されている800から2000分子より二桁以上少ないことを示唆している。
|