本研究は、神経系細胞の機能発現にも重要な役割を担うサイトカイン、とりわけ神経系の発生や疾患との関連において注目されるインターロイキン-1(IL-1)の細胞内情報伝達系の体細胞遺伝学的手法による解明を目指ししたものである。 本研究の遂行にあたり、まず野生型の細胞においてポジティブかつネガティブに二重の選択が可能な薬剤耐性遺伝子を用いることを考案した。ハイグロマイシン(Hyg)耐性遺伝子の下流にヘルペス単純ウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(TK)をつなげた融合遺伝子(Hyg-TK)を作製し、遺伝子導入株がHyg耐性、かつガンシクロビール(GANC)感受性の形質を示しことを確認した。さらにデキサメタゾン(Dex)で転写誘導がかかるMMTV-LTRの下流にHyg-TK遺伝子をつなげ、これをLTK-株に導入したところ、この株はDex存在下でHyg耐性GANC感受性を示したのに対して、非存在下では逆にHyg感受性GANC耐性を示し、このHyg-TK遺伝子の遺伝子発現のレポーターとしての使用にも充分に機能しうることが確認された。 そこでIL-1により発現誘導のかかるIL-8遺伝子のプロモーター領域にHyTK遺伝子をつなげ、これをヒトグリア細胞株に導入した。ノザンブロットによる解析によりこの株はIL-1によりIL-8と同様にHyTK遺伝子の発現が誘導され、さらにHygとGANCに対する感受性がIL-1により顕著に制御されることが確認された。また、IL-8プロモーターの下流にHyTK遺伝子とbetaガラクトシダーゼ遺伝子をつなげたプラスミドを作製し、これを導入した細胞株でのIL-1によるbetaガラクトシダーゼ遺伝子の発現誘導をX-galを基質とした活性染色で確認した。 現在、本研究により確立したIL-1応答性細胞株に対して変異処理を行い、薬剤感受性とbetaガラクトシダーゼ活性の変化をマーカーに、IL-1に対してのこれらの遺伝子発現の誘導がかからなくなった株の取得を試みでいる。さらにIL-1非応答性変異株の生化学的解析やcDNAによる機能発現クローニングにより、IL-1の細胞内情報伝達系の構成因子の同定と情報の流れの機序の解明に取り組む予定である。
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