研究概要 |
私は、小脳LTDから長期可塑的変化に至る分子機構を解析する目的で、登上線維刺激の代わりに8-bromo-cGMP(cGMP)を、平行線維刺激の代わりにAMPAを潅流して小脳スライスに長期脱感作を成立させ、最初期遺伝子(Immediate early gane;IEG)の発現をin situ hybridization,免疫組織化学的手法で調べた。 その結果、長期脱感作を起こしたスライスでは、30分後に40.2%のプルキンエ細胞にJun-Bが、29.9%のプルキンエ細胞にc-Fosが、発現誘導されることを見いだした。 c-Fos,Jun-B各々の発現誘導に対してcGMP及びAMPAはsynergisticに働き、同じプルキンエ細胞におけるc-Fos,Jun-Bの共発現は、脱感作を起こしたスライス上で約40%のプルキンエ細胞で観察された。 また、c-Fosの発現はCNQXで阻害されたのでnon-NMDA受容体を介してシグナルが入ること、c-Fos,Jun-Bの発現ともBAPTA-AMの存在下又は低カルシウムリンゲル液中で阻害されたので細胞内カルシウムがc-Fos,Jun-Bの発現に関与していることが示唆された。 non-NMDA受容体、カルシウム以外のc-Fos,Jun-Bの発現に関与する細胞内因子については、現在引き続き検討中である。他のIEGのうち、NGFI-Aは非処理スライスでもプルキンエ細胞に発現しており、またFos-B,Fra-1,Fra-2,c-Jun,Jun-D,NGFI-B,PC4の発現の程度は僅か(0-18%)で、いずれの場合も各パラダイム毎の変化は観察されなかった。 本実験結果はLTD成立に必須であるプルキンエ細胞内カルシウム上昇が、核内にc-Fos/Jun-BからなるAP-1複合体を形成する際にも必要であることを示唆している。
|