研究概要 |
本課題では、不斉合成の分野において未開拓といえる光学活性なスピロ化合物に注目し、新しいエナンチオ選択的な触媒反応への応用を通じて、光学活性なスピロ化合物の高い不斉誘起能を実証することを目的として、研究を行った。イソオキサゾリンやイソオキサゾール環を有する新規なスピロ型不斉配位子(SPRIX)を合成し、様々な遷移金属錯体と組み合わせて、従来の不斉配位子を用いても実現不可能な新規不斉触媒反応の開発を目指して検討した結果、Pd-SPRIX触媒系での新しい不斉環化反応を見いだした。 1,3-ジケトンでは、互変異生体であるエノール型構造が共役エノンとなるためにその寄与が比較的大きいことに注目し、2-アリルシクロヘキサ-1,3-ジオンを20mol%のトリフルオロ酢酸パラジウムと22mol%の(P, R, R)-i-Pr-SPRIX並びに2当量のベンゾキノン存在下、ジイソプロピルエーテル中室温で反応させると、分子内でWacker型反応が進行し、2,3,6,7-テトラヒドロクロメン-5-オン誘導体が収率45%,80%eeで得られた。本反応では、異性体である7,8-ジヒドロ-2H-クロメン-5(6H)-オン誘導体が副生したが、触媒反応条件下でも両化合物間の相互変換は全く起こらなかった。また、本反応では基質の1,3-ジケトンの片方のカルボニル基が反応後も未反応のまま残っていることに着目し、2-アリルフェノール誘導体の反応への展開を試みた。Pd-SPRIX触媒を用いて、同様の条件下で2-アリルフェノール誘導体を反応させたところ、2H-クロメンが中程度の収率とエナンチオ選択性で生成することがわかった。
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