研究概要 |
昨年度に引き続き強力な抗HIV活性を有する環状デプシペプチドであるパプアミド類の全合成研究を行った。 構成成分のうち絶対立体化学が不明であった新規長鎖脂肪酸Dhtdaについては、これを含む分解産物について理論上存在する全8種類の異性体を合成した。さらにそのスペクトルデータを天然物由来のものと比較することによってDhtdaの絶対立体化学を2種類の候補にまで絞りこむことに成功した。 環状デプシペプチドに対する側鎖アミノ酸の伸長においては構造異常アミノ酸であるジメチルグルタミンの縮合においてアミド基の脱水反応が問題となったが、縮合剤としてDEPBTを用いることで脱水反応を抑制し、きれいに目的とするカップリング体が得られることを見出した。この知見は側鎖にアミド基を有する難結合性アミノ酸の縮合においてアミド基を無保護のままカップリングするための一般法として広く応用可能となることが期待でき、意義深いと考えられる。このようにして合成したペプチド部分と先に述べたDhtda部分とのカップリングを経て、(2S,3R,8S)-Dhtdaに由来するパプアミドBの全合成を達成した。これによりパプアミドBへの合成ルートが確立されたので、今回合成した(2S,3R,8S)-Dhtdaに由来するパプアミドBのスペクトルデータの更なる詳細な解析や他の立体化学を有するDhtda由来のパプアミドBの合成を通じてDhtdaの絶対立体化学の最終的な決定が可能になると考えられる。また今回の全合成達成がパプアミド類の各種類縁体合成への足がかりとなり、構造活性相関の解明、さらにはより強力な活性を有するアナログの創出にもつながることが期待される。
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