研究概要 |
ユビキチンシステムは、タンパク質の分解、輸送、機能変換などを通して生体内の様々なイベントに関わっており、重要な役割を担っていることが知られている。一方、バキュロウイルスは限られた数の遺伝子しか持たないため、宿主由来の因子を利用することで感染を成功させていると考えられる。本研究は、バキュロウイルスがユビキチンリガーゼ(E3)をコードし、また独自のユビキチン(vUb)をコードする唯一のウイルスであるという事実に着目し、ウイルス感染において独自のユビキチンシステムがどのような役割を果たしているのかを調べることを目的とした。 E3は、ユビキチン化の基質を決定づける鍵となる酵素である。すなわち、バキュロウイルスは宿主のタンパク質を自身の持つE3によって選別し、利用していると考えられる。研究代表者は、バキュロウイルスの一種であるカイコ核多角体病ウイルスBmNPVの、少なくとも3つの遺伝子がRINGフィンガー型のE3として機能することを既に報告している。前年度までにBmNPVの全遺伝子を精査したところ、RINGフィンガー配列に類似の配列を持つタンパク質が5つ(orf41, orf116, orf117, orf123およびie0)コードされていることが新たに分かった。そこで、これらの遺伝子のE3活性を調べた。まず、これらの遺伝子をマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として大腸菌内で発現させ、in vitroにおいてユビキチン化の再構成実験を行った。orf41については、C末端領域が膜貫通型のモチーフを持っていたため、その領域を欠損させて発現させ、解析した。しかし残念ながら、全ての遺伝子について明瞭なユビキチン化能は認められなかった。RINGフィンガーモチーフはタンパク質の一次構造から予測できるが、近年、一次構造上全く相同性を持たないにもかかわらず立体的にはRINGフィンガー様の構造をとるタンパク質が報告されていることから、今後はBmNPV全ての遺伝子についてスクリーニング的にユビキチン化能を調べることが望まれる。
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