研究概要 |
1.嘘に関する神経心理学的研究 本年度はパーキンソン病患者群を対象として、一般的な神経心理学的検査に加えて嘘をつく認知課題を施行し、さらにFDG-PETによる脳の糖代謝の測定を行った。結果として患者群では健常対照群と比べ、嘘をつく課題では有意に成績が低下していた。さらにこの成績の低下は、患者群において前頭前野の糖代謝の低下と相関していた。嘘をつく認知過程と前頭前野の機能に関する研究の多くは、健常者を対象とした脳機能画像法による実験であったため、今回の研究では初めて神経心理学的な知見を得ることができた。またこれまで行ってきた脳機能画像法の結果とも矛盾しない結果であり、前頭前野が嘘をつく際には必須の役割を果たしている可能性を、脳機能画像法と神経心理学という二つの異なるアプローチを用いて示すことができた。 2.錯記憶に関する神経心理学的研究 本年度は特異な人物誤認を呈した症例を報告すると共に(Abe, et. al., 2007)、アルツハイマー病患者群における虚再認についての神経心理学的研究を行った。アルツハイマー病では鮮明な記憶が想起できないため曖昧な記憶に依拠してしまうという先行研究の知見と一致して、患者群では健常対照群と比べ、詳細な記憶を想起することで虚再認を防ぐプロセスが障害されている可能性が示された。また、今回使用した実験課題は健常者を対象として行うfMRI実験にも応用可能なものであり、錯記憶のメカニズムをさらに追求する上で有用なパラダイムを確立することができた。
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