研究概要 |
最終年度である本年度は,主に,前年度までに得られた1)沿岸地下水中での窒素浄化機構の解明および2)窒素浄化能の算出の結果についてのまとめを行い,3)窒素流出を定量化することを目的とし,以下のとおりに実施した. 1.地形勾配が急な瀬戸内海沿岸の農業流域に設置した観測井において,原位置脱窒実験を行った結果,流速が比較的遅い深度の地下水では,明瞭な脱窒が生じる傾向が確認されたのに対し,流速が比較的速い深度においては,そのような結果が確認されなかった.2.地下水流速の遅い中国黄河河ロデルタ地域において,地下水流動にともなう硝酸性窒素濃度および硝酸の窒素安定同位体比の変化を確認するとともに,観測井において原位置脱窒実験を行った.その結果,地下水流出域において明瞭な脱窒反応が生じていることが確認された.さらに,涵養域においても生じていることが明らかになった.これは,瀬戸内の急勾配流域とは明らかに異なる結果であり,脱窒反応が,地下水流速の影響を強く受けていることが明らかになった. 3.帯水層の水理特性およびトレーサー法に基づき,試験流域の地下水流速を見積もるとともに,地下水中での硝酸性窒素濃度の変化を確認した結果,間隙流速およびダルシー流東と地下水中での硝酸性窒素濃度減少量との明瞭な負の相関が明らかになった.この結果は,地下水流速が小さな領域ほど,顕著な濃度減衰が生じることを示している.さらに,従来の研究結果を踏まえた考察から,流域スケールでは,流域の動水勾配および地形勾配と硝酸性窒素濃度減衰との明瞭な負の相関が確認でき,地形によってもおおむね硝酸性窒素濃度減衰を推定できることが明らかになった.また,以上の結果から,窒素減衰の生じない臨界地下水流速が定義された.
|