研究概要 |
乳児が主導する注意共有行動(始発的共同注意行動)の出現における情動の役割の解明を目的として、本年度は、玩具遊び中の乳児がいつごろから他者の反応を予期して笑顔を伴った視線を人へと転換しはじめるのかについて検討した。調査は実験的観察法を用い、玩具遊び中の乳児(8,10ヶ月児)の養育者へのふりかえり行動と、それに伴う情動表出を記録した。実験には注目条件と非注目条件が設けられ、養育者は、注目条件時は乳児の行動に注目し、非注目条件では本を読むことで乳児には注目しないよう教示された。実験場面はマッキントッシュデジタルビデオカメラにより記録され、収集された動画データはDVDに記録されたのち、被験者の個人情報を保護する観点からスタンドアローンのパソコンによって分析された。またデータの信頼性を保障するためにビデオ評定者には乳幼児の行動評定に習熟した者を用いた。結果より、乳児のふりかえりの総回数は養育者の注目・非注目条件において変化しなかったが、ふりかえりに伴う微笑の表出タイミングには変化が見られた。中でも興味深いのは、生後10ヶ月児は養育者から注目されているときに「(養育者を見る前に)微笑を浮かべてから振り向く」行動を増加させるのに対し、生後8ヶ月児は養育者から注目されている時に「ふりむいてから(養育者を見てから)微笑する」行動を増加させたことである。これらの結果はJones, Collins & Hohg(1991)の知見とも一致するものであり、生後10ヶ月児は既に他者からの反応を予期してあらかじめ表情を調整してふりむくことができるのに対し、生後8ヵ月児は未だ他者の反応に対する予期の形成過程にあることが示唆された。 一方で、黒木・大神(2003)の調査対象児となった地方自治体の幼児については、3歳に達した時点で乳児期の個人差の発達的帰結を確認するために心理社会面の発達を確認した。しかしながら、3歳時点における評価のみでは発達障害の有無を確定することが困難であったため、調査の信頼性を確保するために障害予測に関する検討は、障害特徴が明確化する5歳以降を待つこととなった。この確認作業は現在も継続中である。なお、これらの研究成果については国内学会においてポスター発表を行うと共に、論文としてまとめられた。
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