研究概要 |
細胞内情報伝達過程では、リン酸化されたタンパク質がリン酸基を介したタンパク質間相互作用によって情報のやりとりを仲介することで、爆発的に増えた情報を効率良く下流に伝達している。そのため、タンパク質表面のリン酸基を認識すし、蛍光センシング可能なセンサー分子の開発は、細胞内情報伝達の解明に大きく貢献すると考えられる。その様な背景のもと、これまで私は、タンパク質表面に存在する複数のリン酸基を特異的に認識する人工分子の開発に成功している(J.Am.Chem.Soc.,2003,124,10184)。そこで私は、生体複雑系での蛍光センシングを可能とするための分子設計を施し、小分子リン酸種が共存するような夾雑系での多重リン酸化タンパク質への選択性や蛍光センシング能の向上を図った。標的タンパク質としてTauタンパク質を選択し、その多重リン酸化配列を用いてレセプター分子の認識能や蛍光センシング能を評価している。BODIPYを蛍光団とした剛直な構造を有するレセプター分子は、Tauタンパク質の多重リン酸化配列上のi,i+4の位置に離れて位置する二つのリン酸基を選択的に架橋して認識し、蛍光センシングすることを明らかにしている。また、類似のリン酸種であるATP共存下においても、多重リン酸化ペプチドを特異的に認識することも実証した。さらに、このセンサー分子をキナーゼによるペプチドのリン酸化反応のリアルタイム蛍光モニタリングへと応用し、キナーゼ活性の簡便なモニタリングだけではなく、キナーゼの阻害剤アッセイにも成功した。以上の結果から私は、これまで達成困難であったリン酸化タンパク質に対する検出系の確立を達成したと考える。
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