加速器や核融合炉に用いられる大型超伝導マグネットの冷却には超流動ヘリウム(He II)が加圧状態(サブクール状態)で冷媒として用いられている。このマグネットの状態が常伝導状態へ不安定的に変化するクエンチを起こした際には、大量のジュール熱が発生し、冷媒であるHe II中にサブクール膜沸騰が発生するおそれがある。He II中のサブクール膜沸騰に関しては、これまでに十分な研究がされてきたとは言い難く、より詳細な沸騰時の熱流動現象の深い理解が求められている。本研究では、He II中のサブクール膜沸騰の実相を明らかにする中でその特徴を解明することを目的とした。以下に研究実績をまとめる。 ・He IIに発生する各膜沸騰モードについて、流体力学的安定論を援用して膜沸騰状態の考察を行い、実験結果との比較を行った。特に、サブクール膜沸騰時に現れる、He II-He I-He蒸気の三相共存状態という特異な沸騰状態での流体力学的安定性について考察した。各膜沸騰モードの沸騰状態を比較し、最も沸騰状態の制御のし易い条件について考察し、より安定な冷却状態の探求を行った。これにより、サブクール状態で発生する、安定な強サブクール膜沸騰と不安定な弱サブクール膜沸騰の違いを区別することができた。 ・ヒータの幾何学的形状の変化におけるHe II中の膜沸騰モードへの影響について実験を行った。これまでは厚さ3mmのガラス基板に薄膜を真空蒸着したヒータを用いてきた。今回は、He II中の膜沸騰モードへのヒータ厚さの影響を解明するために、厚さが10mmの銅ブロックヒータを用いて実験を行った。ヒータ形状の違いによるHe II中の膜沸騰モード分布の変化を明らかにし、流体力学的安定論の観点からの考察を行うことができた。
|