研究概要 |
窒素(N)原子の化学反応過程は、中層大気におけるオゾン濃度に影響を及ぼすため、大気化学的に非常に重要である。従来、電子基底状態のN原子の反応計測においては、N_2のマイクロ波放電を利用してN原子を生成する方法が用いられてきたが、様々な励起種やイオンが同時に生成し、反応計測に干渉する可能性があった。また、N原子の検出には、質量分析法やランプを用いた原子共鳴蛍光法が用いられてきたが、感度が十分ではなかった。そのため、大気化学的な重要性にもかかわらず、N原子の反応過程に関する詳しい知見は得られていない。本研究では、電子基底N原子の反応過程を、新しいレーザー分光技術によって解明することを目指した。 本研究では、NOもしくはNO_2に193nmレーザー光を照射することにより、N原子が生成することを見出し、N原子の新しい生成法の確立に成功した。生成したN原子は、我々がこれまでに開発した120.1nmでの真空紫外レーザー誘起蛍光分光法を用いて、高感度に検出した。これらのN原子の生成・検出法を反応計測に初めて応用し、N原子とNOおよびNO_2との295±2Kにおける反応速度定数をそれぞれ、(3.8±0.2)×10^<-11>,(7.3±0.9)×10^<-12>(cm^3 molecule^<-1> s^<-1>)と決定した。さらに、高層大気におけるNO生成に重要な寄与を持つ可能性が指摘されている高速なN原子の並進エネルギー緩和過程について、初めて実験的研究を行い、高速なN原子の空気分子(N_2,O_2,He,Ar)との衝突における並進緩和断面積の測定に成功した。これらの研究成果は、中層・高層大気における窒素酸化物の生成・消失過程を詳細に理解し、オゾン濃度の変動を見積もる上で重要となると考えられる。 本研究の成果は、アメリカ化学会およびアメリカ地球物理学会の国際誌に掲載された。
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