研究概要 |
転写伸長因子DSIFおよびNELFは協調してRNAポリメラーゼII(RNAPII)に作用し、転写伸長を一時停止させる生化学的活性をもつ。しかし、その機能の生理学的な役割はあまり理解が進んでいない。本年度は研究の第二段階としてDSIFとNELFによりRNAPIIが一時停止する領域をゲノムワイドに探索した。まず抗NELF-E抗体で免疫沈降したDNAをSACO(serial analysis of chromatin occupancy)という手法を用いて21bpのタグに変換し、このタグのゲノム上の位置を確認した。得られたタグの位置を転写開始点からの距離によって分類すると、プロモーター近傍領域のDNAが非常に効率よく抗NELF抗体によって免疫沈降されることが分かった。そこで、探索の範囲をプロモーター近傍に絞り込み、約2万5千転写開始点とその周辺を網羅したプロモーターアレイを用いて、いわゆるChIP-chipの手法でRNAPIIとNELFの結合領域を探索した。その結果、NELFはRNAPIIの結合するほぼ全てのプロモーター近傍領域に共局在しており、同領域で普遍的にRNAPIIの転写伸長を抑制していることが分かった。ところが、RNAiによりNELFをノックダウンした細胞で同様にRNAPIIについてChIP-chipをおこなうと、RNAPIIのプロモーター近傍への結合はNELF依存的なものと非依存的なものの2つに分けられることが分かった。この結果はプロモーターにおける転写開始前複合体形成の効率とDSIF,NELFによる一時停止複合体の形成効率は遺伝子によって異なることを示しているようである。実際に、DSIFやNELFの結合は一般性が高いものの、全ての遺伝子において等しく作用してはいないことが以前から示唆されていた。現在、以上に幾つかの解析を補い、論文にまとめる段階に達している。
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