当該研究室における研究から、ヒト小腸毛細リンパ管は、Toll-like receptor(TLR)2および4、ならびにcys-cys chemokine ligand(CCL)21を同時発現すること、また、ヒト歯肉におけるリンパ管はTLR2および4を発現せず、CCL21のみを発現することを明らかにした。我々はこの相違点の要因を明らかにすることを目的とし、以下の実験を行った。 (1)種々の口腔組織(ヒト舌、頬粘膜、歯髄、口蓋扁桃)を用い、リンパ管内皮細胞におけるTLR2、TLR4およびCCL21の発現を免疫組織化学的に検索(なお、組織にはそれぞれ健常および炎症組織を用いた。)した。 (2)培養ヒト成人皮膚真皮由来リンパ管内皮細胞(AD-HDLEC)および培養ヒト新生児皮膚真皮由来リンパ管内皮細胞(NEO-HDLEC)におけるTLR2、TLR4、MD-2(TLR4と複合体を形成する分子)、ならびにCCL21の発現と、TLR2およびTLR4によるCCL21発現誘導を、RT-PCR、ウェスタンブロッティング、免疫染色、ルシフェラーゼアッセイ、ならびに抗体阻害実験を用いて検索した。 その結果、 (1)ヒト健常および炎症口腔組織における全てのリンパ管はTLR2およびTLR4を発現しなかった。 (2)ヒト健常組織において、歯髄では集合リンパ管のみがCCL21を発現し、毛細リンパ管はCCL21を発現しなかった。また、舌、頬粘膜ならびに口蓋扁桃ではほぼ全てのリンパ管がCCL21を発現した。 (3)ヒト炎症組織において、歯髄、舌、ならびに頬粘膜では全てのリンパ管がCCL21を発現せず、口蓋扁桃では全てのリンパ管がCCL21を発現した。 (4)NEO-HDLECにおいて、TLR2、TLR4、およびMD-2は遺伝子レベルのみ発現が認められ、タンパク発現は認められなかった。一方AD-HDLECにおいてTLR2、TLR4、およびMD-2は遺伝子およびタンパクレベルで発現が認められた。また、遺伝子レベルではAD-HDLECがNEO-HDLECと比較して優位にTLR2、TLR4、およびMD-2を発現した。 (5)NEO-HDLECおよびAD-HDLECは遺伝子およびタンパクレベルでCCL21を発現した。 (6)TLR2およびTLR4によるCCL21の発現誘導に関しては現在も検索中である。 なお、上記の検索ではリンパ管特異的マーカー(血管内皮細胞では発現しない)であるdesmoplakin、lymphatic endothelium hyaluronan receptor、PodoplaninならびにProx1に対する特異抗体を用いて組織内のリンパ管を同定した。
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