研究概要 |
平成19年度は、平成17,18年度の研究において定義した開弦における境界条件の研究を発展させた。開弦における境界状態とは、複数のディリクレ膜(Dブレイン)が共存する状況において、一方のDブレインが開弦を放出吸収する状況を記述する、共形場の理論の状態である。平成17、18年度の段階ではボソン弦においてのみ開弦の境界状態が定義されていた。一方、Dブレインが交差するような物理系は、フェルミオン弦をも含む超弦理論において重要な役割を果たすことが知られている。例えば、素粒子の標準模型を導く交差するDブレイン系や、ゲージ理論の非摂動的側面において重要な役割を果たすインスタントン解を再現するD3-D(-1)ブレイン系等である。これらに開弦の境界状態を適用することを考えると、これを超弦理論に拡張することが必要であった。私は、平成19年度の研究において、実際に開弦の境界状態を超弦理論に拡張することに成功した。その際、ボソニック弦のときのやり方をそのまま安直に踏襲すると境界状態の定義に不定性が生じることがわかる。それを解決するために、弦の場の理論の相互作用バーテックスの定義の仕方を参考にし、ボソニック弦の揚合を含みかつ不定性をなくすような定義を開発した。重要な応用としてD3-D(-1)ブレイン系を挙げる。この系において、以前からD(-1)ブレインは、D3ブレイン上のゲージ理論のインスタントンに対応する、とさまざまな証拠から信じられていた。私は、D(-1)を表す開弦の境界状態を構成し、D(-1)ブレインから放出される開弦に含まれるゲージ場がインスタントン配位を示すことを、弦理論的に示した。これはD(-1)ブレインがインスタントン配位を表すことを弦理論的に示した最初の事例であり、重要な意味を持つと考えている。
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