研究課題
特別研究員奨励費
本研究の材料であるアコヤ貝貝殻は内側に炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶から成る真珠層、外側に炭酸カルシウムのカルサイト結晶から成る稜柱層と、異なる2つの結晶多形から構成されているのが特徴である。このように同一の場に最安定であるカルサイト結晶と準安定であるアラゴナイト結晶を作り出す機構に、有機基質が関与していると考えられるが、未だそのメカニズムは不明である。そこで貝殻から有機基質を単離・精製し、構造機能解析を行うことで貝殻形成のメカニズムを明らかにすることを目的とした。真珠層から不溶性成分を抽出し、カルサイトとアラゴナイトの結晶にそれぞれ結合させたところ、分子質量約80kDaのバンドがアラゴナイト結晶に特異的に結合することが判明した。この80kDa付近のバンドのN末端アミノ酸配列および内部アミノ酸配列を解析し、その配列を基にRT-PCRを行い、5'-RACE、3'-RACEを行うことにより全長約3kbpの全塩基配列を決定した。相同性検索の結果、有意に相同性のあるものは存在せず、新規のタンパク質であったため、この分子をPifと命名した。Pifの配列解析を行ったところ、80kDaのバンド(Pif80)のN末端配列の上流にRXKR配列を挟んでさらに上流に配列が存在することが判明した。上流のタンパク質はPif80の高分子側に位置するバンドであることが判明し、これをPif97と命名した。Pif97はタンパク質間相互作用に働くVWAドメインとキチンとの結合に働くキチンもbindingドメインを有しており、またシステイン残基を23個持つことからジスルフィド結合による強固な立体構造を取ることが示唆された。Pif80はアスパラギン酸を28.5%も含む配列であり、他にもグルタミン酸4.1%、リジン18.7%、アルギニン10.9%と合計で解離性のアミノ酸を62.2%も含む親水性タンパク質であることが判明した。既知のドメインは存在せず、全体としてDDRKといった酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸の繰り返しの配列が見られた。今後はこのPif分子について詳細な解析を行っていきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
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