研究概要 |
甲状腺ホルモン(TH)は脳の発達・分化・機能維持に重要な働きをしており、胎児期・新生児期でのTHの不足は精神遅滞を引き起こす。脳は生理的な重要性から血液脳関門により循環血から隔てられており、これまでの研究から、血液脳関門には能動的なTHの取り込み機構が存在しており、THトランスポーター(Oatplcl,Oatpla4,LATI)が発現していることが明らかになっている。本年度は、Oatplc1およびOatpla4ノックアウト(KO)マウスの表現型の解析を行い、輸送系の働きについて検討を行った。 i.v.単回投与後8時間での脳内へのTH(T4,T3)の分布を調べたところ、Oatplcl KOマウスにおいてT4の脳内濃度/血漿中濃度比(Kp,brain)が36%低下していた。一方、Oatpla4 KO マウスにおいてT4のKp,brainの有意な低下はなかった。T3 のKp.brainは、両KOマウスともに野生型と比べて有意な差はなかった。T4の脳取り込みの低下による影響をみるために、脳内のTHの活性化酵素であるD2の酵素活性を測定した。Oatplcl KOマウスにおいてのみ、D2酵素活性の上昇が見られ、脳内のT4濃度の低下が示唆された。しかし、両KO マウスともに血清中のT4,TSH濃度に変化はなかった。 以上により、Oatplclは脳内へのT4の取り込みに40%程度寄与していることが明らかとなった。更に、その機能欠損はD2の酵素誘導により代償されていることが示唆された。また、Oatpla4の寄与は小さいと考えられた。 また、血液脳関門にMCT8が発現していることを見出し、T4,T3の脳取り込みにおける寄与率を速度論的に見積もったところ、それぞれ、60,90程度関与していることが示唆され、このことから、血液脳関門を介したT4の輸送はOatplclとMCT8により行われていることが示唆された。
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