北朝鮮政治体制を「多元主義」の視角により分析し、学術雑誌に論文を投稿した。これまで同国の「多元化」や「多元主義」について真正面から検証が行なわれることはなかった。極端な独裁体制下では「多元主義」は不在であり、議論する必要さえないとの暗黙の了解ないし無意識の無関心があったことによる。しかしJ.Linzが指摘するように非民主的体制の分析にも「多元主義」の観点は看過できない。さらに、立法府・国会にあたる最高人民会議の機能について歴史的に検証し、学会発表を行なった。ここでは脱北者証言で得られた情報を新たに公開された法律で裏づけするという作業に拠った。 また、外交交渉史の側面のみが注目されてきた日朝関係について、北朝鮮が日本人観光客をどのように受け入れてきたかという新たな観点から分析を行い学術雑誌に論文を投稿した。新たに発掘した日朝両国の資料を多用し、同国においては観光政策というものが政治政策に従属したものであることを確認した。 さらに、金正日政権下の北朝鮮政治体制で重視されている「先軍」概念に着目し、金日成統治下で「唯一イデオロギー」として認知されてきた「主体思想」、「主体」概念と関連性を解明しつつその本質を探った論文を学術雑誌に投稿した。近年では「先軍」が単に軍重視という意味のみならず「主体」と双璧を成す象徴的な概念に昇華したことを明らかにし、その背景に第二次後継者問題があるとの仮説を提示した。
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