研究課題/領域番号 |
06041009
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊 筑波大学, 歴史・人類学系, 教授 (00114497)
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研究分担者 |
WANDIBA Simi ナイロビ大学, アフリカ研究所・教授, 所長
小田 亮 成城大学, 文芸学部, 助教授 (50214143)
湖中 真哉 静岡県立大学, 国際関係学部, 助手 (30275101)
松園 万亀雄 東京都立大学, 人文学部, 教授 (00061408)
KASSA Getach アディスアベバ大学, エチオピア研究所, 研究員
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
25,100千円 (直接経費: 25,100千円)
1996年度: 8,200千円 (直接経費: 8,200千円)
1995年度: 7,600千円 (直接経費: 7,600千円)
1994年度: 9,300千円 (直接経費: 9,300千円)
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キーワード | レンディーレ族 / メル族 / クリア族 / サンブル族 / ジェンダー / 郷土組織 / 遊牧的地域経済 / 部族の再活性化 / ムベレ族 / 牧畜的価値 / 農業共同組合 / 地域経済 / 社会変化 / 家畜取引 / 灌漑農業 / 開発組合 / 東アフリカ / 遊牧社会 / 民俗技術 |
研究概要 |
東アフリカの遊牧民や農耕民の伝統的な生活様式が、急進的な外発的開発と政治経済的な論理に基づく近代化政策によってそ存立基盤を破壊されない状況におかれている。確かに、遊牧圏においては、伝統的な家畜取引に付与されていた社会的交換財としての機能が、商業取引の影響をうけて希薄化された。また、農業圏においても、生産共同組合による換金作物の生産が強化されてきた。しかし、このような過程が、伝統的農牧民村の崩壊を直截的に導くのかどうか、また伝統的な地域社会の信用取引や共同体的紐帯が崩壊するのかどうか、さらには経済的格差の増幅が社会的格差を引き起こすのかどうか、というのが本研究によって検証されるべき課題であった。 その成果は、現在、研究分担者が分析中であるが、予備的な総括を以下のように整理できる。 2.遊牧的地域経済の社会経済的構造: エチオピア・ケニア・ソマリの三国国境の地域経済は、為替の国際的な変動と中近東の経済動向の影響をうけているが、その内部は、自給的な生業遊牧民、商業と遊牧を組み合わせた在地商人、田舎町と都市を仲介する大規模商人によって支えられている。家畜の種類によって流通路は違っている。ヒツジを好むエチオピア方面にはヒツジが、逆にヤギを好むケニア方面にはヤギが大商人によって販売される。 とくに、ウシは需要が高いので、牧民の希望に近い値段で取引されるが、ラクダの需要は低い。そのため、ラクダ遊牧民は、伝統的な畜友関係や家畜間の固定交換レートによっていったんラクダをウシに交換し、このウシを市場で売却して市場価格の不利益をカバーする。こうして二重経済を維持している。 また、遊牧民は、経済歴のあるものよりも、未経産の牝個体を育てる方を強く好む態度を共通にもっている。これは、従来指摘されることのない重要な牧畜的価値観の発見である。 さらに、旱魃の深刻化は家畜の商価値を招き、しかも交易場所へのその供給も途絶えるために、在地商人の取引の機会が脅かされる。この窮状に対して、在地商人は特定の集団(例:クラン)との結びつきを強めて、販路を確保する動きを強める。一方、牧民は、従来の集落・家畜キャンプの二分居住を修正して、乳の得られるキャンプ地の近くに、衛星村を応急処置として作り、食糧灘を凌ぐ方策をとる。この方策は、19世紀末の大飢饉以来の緊急避難の知恵を発揮したのである。 このような伝統的な適応手段は現在でも有効性をもち、それゆえに、市場価値の低いラクダの遊牧民であっても、市場経済化の国策に対して、柔軟に対応できるのである。この事実は、民族間の共存原理が強靱であることを示唆しており、ひいては、地域社会の市場経済論的な分析が表層的で実態を無視したものであり、むしろ地域の伝統性を再評価した分析の必要性を示唆する。 2.農業圏では、耕地の開発組合と農産物の販売組合が着実に組織化され、同時に女性の高学歴化と自立運動によって、家族組織に変化が生じてきている。クリア社会では、都市部と母村とを連携させた、互助的な郷土組織がつくられ、この動きは新たな郷土復興現象として理解できる。しかし、メル-社会は、家族計画の政策的導入や婦人団体の自助活動によって、伝統的なジェンダー観が激しく揺さぶられている。とくに、教会と初等教育の普及は、性的な意識と行動に大きな世代ギャップを生み出し、伝統的な家族制度と村落構造を不安定にしている。 3.ケニア国の多党化政治の混乱は、以前にもまして国内を混乱に導いている。その大きな要因は、旧来の部族意識の再活性化と中央政府の混乱にあるが、遊牧地域では家畜の略奪が頻発化し、農村部でも政治的党派をめぐる衝突事件が頻発化してきた。これらの現象が、旧来の“部族"的連合の再活性化による新たな分権的な地域社会の再編成という結果をもたらす可能性が強い。
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