研究課題/領域番号 |
06041042
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
伍賀 一道 金沢大学, 経済学部, 教授 (20104870)
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研究分担者 |
横山 寿一 金沢大学, 経済学部, 助教授 (10200916)
三富 紀敬 静岡大学, 人文学部, 教授 (80135227)
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研究期間 (年度) |
1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1994年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
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キーワード | 職業紹介 / 民営職業紹介事業 / 労働者派遣事業 / 派遣労働者 / 労働市場の弾力化 / 規制緩和 / 雇用形態の多様化 |
研究概要 |
イギリス、スウエーデン、フランスにおける職業紹介システムの多様化、民営化についての調査を行い、下記の点が明らかになった。 1.イギリス (1)イギリスは、早くから民営職業紹介や労働者派遣事業がさかんで、西欧諸国の中では、これらにたいする規制が最も弱い国である。政府の免許を取得しさえすれば、民営職業紹介や労働者派遣業を自由に営むことができる。これらの事業に関わる民営業者の数は1994年3月時点で1万4482件に達している。ホワイトカラーの仕事を求める求職者や求人企業は公共職業紹介所(Jobcentre)よりも民営職業紹介会社の方を好む傾向が見られる。また民営業者が兼営している労働者派遣業が、求人側によって労働者の試用期間として利用されている面がある。 (2)民営職業紹介事業は以下のような問題を孕んでいることが明らかになった。第1に、民営職業紹介業者の手数料収入は斡旋する労働者の賃金水準に依存しているために、相対的に賃金の高い専門的、管理的職種の労働者の斡旋に重点をおきがちになる。それゆえ低賃金職種の労働者や様々なハンディキャップを負った人々は民営職業紹介事業の斡旋対象にはなりにくい。第2に、失業者が増加し、求職活動が困難になる不況期に民営職業紹介事業は有効に機能できないことである。不況期には民営業者の中には経営維持に必要な手数料収入を確保できず、倒産、廃業するケースがかなりあった。1990年から92年の不況期に民営業者はイギリス全体で約2700件減少した。第3に、民営職業紹介業者は経済活動が活発に行われているロンドンをはじめ大都市部に集中立地する傾向があり、このため失業者を多数かかえた不況産業が集中する地域には民営業者は進出してこない。このような地域では公的職業紹介所の役割が大きい。 (3)94年4月からは民営業者と公共職安との業務提携が新たに開始された。協力の具体的な内容は、第1に、求職のために公共職業紹介所を訪れた求職者にたいして、民間業者の方が多くの求人情報をもっていると思われる職種については民営業者の所へ行くように指導を行う、第2に、民営業者から寄せられた求人情報を公共職業紹介所内に掲示することである。 2.スウエーデン スウェーデンは、従来、西欧諸国の中では公的職業紹介事業が最も大きな位置を占めていた。例えば各企業は求人を行う際には公的職業紹介所に通報する義務がある。ところが、1992年1月より民営職業紹介事業の一部と労働者派遣事業が、さらに93年7月には民営職業紹介事業が全面的に合法化されるとともに両事業にたいする規制が大幅に緩和されるなど、大きく変化しつつある。 スウェーデンにおける民営職業紹介事業や労働者派遣事業を営む業者数は合法化以降の歴史が浅いこともあって、他の西欧諸国に較べごくわずかで200〜300件程度である。そのうちおよそ80%はスタッフが1〜2名程度の零細業者である。 民営職業紹介事業や労働者派遣事業に対する法律による規制は少ないが、労働協約による規制が補完的役割を果たしている。民営職業紹介事業の団体と労働組合が締結した労働協約には、派遣労働者にたいして派遣元企業は就労時間の1週間あたりの最低保障を行うとの条項が設けられている。それゆえに、派遣元企業は最低保障時間分の派遣先が確保できなくてもそれに相当する分の賃金を支払わなければならない。日本の登録型派遣業の派遣労働者がかかえる不安は軽減されている。 3.フランス フランスでは、公的職業紹介事業(ANPE)の機能の強化(たとえば職員数の拡充と職業紹介数の増加)を求める運動がある一方で、、民営職業紹介の公認をめぐる動きが活発になっている。イギリスで見られたような公的職業紹介事業(ANPE)と労働者派遣企業との協力関係を築くようにとの方向が政府から出されている。あわせて求人広告をめぐる法律違反と規制の動向についても実証的に調査を行った。 4.以上のように、西欧では従来、労働者派遣事業や民営職業紹介事業を禁止していた国において、これら事業の合法化に踏切る動きがあいついでいる。こうした動向を反映してILOでは94年6月に開かれた第81回総会において、有料職業紹介所に関する第96号条約の改正を行うとの結論が採択された。この結果、2〜3年後には同条約は改正されるものと予測される。こうした動向はわが国の労働者派遣事業や民営職業紹介事業の見直し論議にも影響を及ぼすと思われる。今後、職業紹介システムの民営化がもたらしている成果と問題点について、継続的に調査研究を行う計画である。
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