研究概要 |
今日,経済は国際化の時代で,モノ,ヒト,カネ、企業は国境を越えて動いている。木材や林産物の貿易もまたこの間に大きく拡大してきた。環太平洋地域,北米,西ヨーロッパの三つの地域ブロック内での拡大に加えて,インドネシア,マレーシア,ブラジル,チリなど発展途上国もまたこれに加わりつつある。林産物輸出国では伐採対象がold-growthからsecond-growthに移行しており,その過程で森林の保続的管理とともに保全問題が顕在化している。これまでのように森林を生産の場ととらえ,森林資源を大量に伐採することは批判されている。勿論,貿易が行われるのはそこに利益がもたらされるからである。そしてこの貿易の展開に深くかかわってきたのは巨大な企業で,世界的な規模で事業を展開する多角化,多国籍化する企業である。北米,北欧,日本の企業が三つの極をなしているが,前二者の企業は垂直的に,水平的に統合化した経営形態であり,木材関連企業の展開基盤として広大な森林資源を保有している。 本研究の課題は次の2点である。(1)北米および北欧企業に焦点をあて,1980年代半ば以降世界的に進む企業のM&A(企業の吸収・合併)の中での産業の再編過程を明らかにした。そして,それが及ぼす日本市場,企業への影響について分析した.(2)熱帯林の消失は,現在大きな世界的問題になっているが,先進国でも膨大な森林資源を企業は年々伐採・利用している。巨大木材企業は広大な森林を経営基盤にしているが,森林保全の世論が高まる中で環境に配慮しつつ,保続生産(sustainable forestry)を計画的に図っているか。また,木材企業は国有林や非産業有林(non-industrial forest)の間で森林保全を視野に入れた木材生産がいかに展開しているかを解明した。ニュージーランドを研究対象にしたのも国有林の民営化によって生産と保全がいかに図られているかを実証的に明らかにするためであった。以下で解明された2点を指摘する。 1.「アメリカの経済文明を理解するためには,営利企業の組織とその機能の仕方を理解しなければならない」とサムエルソンは述べているが,今や経済社会は巨大企業に支配されている。木材関連産業もまた巨大企業の寡占競争のもとにある。1994年売上高から木材関連企業をみると,100億ドルを上回る企業はインターナショナルペ-パ-,ジョージァパシフィック,ウエアーハウザ-の3社でいずれもアメリカ多国籍企業である。トップ企業の売上高は年率にして十数%の伸びを示し,80年代後半の売上高・純利益率は5.2〜7.9%と高い蓄積を達成した。企業はこうした膨大な内部蓄積を追加投資することによって水平的,垂直的統合を図り,さらに巨大な合併・買収によって企業は巨大化を遂げている。そしてこのアメリカ企業の巨大化は,北欧企業の再編,日本企業の再編へと世界的規模の再編の契機になっており,いっそう巨大化した企業間の寡占競争構造を生んでいる。 2.アメリカ木材企業は膨大な森林資源を基盤(後進的統合)に多角的に発展してきた。企業が所有する森林は7000万エーカーを上回り,国全体の森林面積の14%を占めるまでになっている。過去においては,森林を所有し,経営するのは経済目的であり,木材生産から利益を追求することであった。しかし,大衆から提起された保続経営への疑問は,森林経営や木材生産加工・貿易に影響が及ぶまでになっている。バイオディバスティ,ハビタッツコンザ-ベーション,エコシステムマネージメントなど森林経営に新しい理念,思想が取り入れられている。一方,多目的利用原則のもとで木材生産を重視してきた北米国有林,それは極めて企業奉仕的であったがゆえに,国民から支持を失う結果になり,軌道修正はそれだけに大きい。
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