研究課題/領域番号 |
06041064
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加納 隆至 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (40045050)
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研究分担者 |
古市 剛史 明治学院大学, 教養, 助教授 (20212194)
安里 龍 琉球大学, 医, 講師 (60045052)
山極 寿一 (山際 寿一) 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (60166600)
黒田 末寿 滋賀県立大学, 人間文化, 教授 (80153419)
榎本 知郎 東海大学, 医, 助教授 (80056316)
金森 正臣 愛知教育大学, 生物, 教授 (70015585)
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
22,700千円 (直接経費: 22,700千円)
1995年度: 11,100千円 (直接経費: 11,100千円)
1994年度: 11,600千円 (直接経費: 11,600千円)
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キーワード | チンパンジー / ゴリラ / 生息地利用 / アフリカ / 乾燥疎開林 / 熱帯雨林 / 種内変異 / 種間相違 / サバンナウッドランド / カボン / タンザニア |
研究概要 |
平成6年度は、中央アフリカ・ガボンの湿潤熱帯雨林であるプチロアンゴ保護区において黒田末寿・山極寿一が、東アフリカ・タンザニアの乾燥疎開林(サバンナウッドランド)であるリランシンバ丘陵で加納隆至・安里龍、ウガラ丘陵で伊谷原一・小川秀司が調査を行った。平成7年度は、ガボンの同地域で古市剛史が、タンザニアの同地域で加納隆至・金森正臣・伊谷原一・小川秀司が、ウガンダの森林限界地帯であるカリンズ森林とキバレ国立公園で榎本知郎が調査を行った。これらは、乾燥-湿潤度と食物の豊かさ-乏しさにおいてチンパンジーの生息環境の両極端をカバーする地域である。また、ガボンのプチロアンゴ保護区は、チンパンジーとゴリラが共に生息する地域である。 各調査地で総直線距離20kmにわたるライントランセクト法によって、植生調査を実施した。同時に、採集した総数400余点の植物標本をコンゴ植物利用研究所およびダルエスサレム大学植物学教室に同定を依頼し、これらを基に各地域の植生構造を解明した。また、齧歯類の分布調査によって得た200余点15種の組み合わせの視点から、調査地の生態的環境を把握した。一方、各個体が一晩毎に造って眠る巣(ベット)の分布をベット・センサス法によって調べる事によって、各地域におけるチンパンジーとゴリラの生息密度を推定した。さらに、ベットの分布調査、食痕・糞分析、直接観察によって、チンパンジーとゴリラが泊まり場と食物の両面においてどのように生息環境を利用しているかを調べた。また、直接観察の可能な限りチンパンジーの行動面における種内変異を探るための資料を収集した。これらによって、チンパンジーの種内変異、チンパンジーとゴリラの種間相違と種間関係を分析する資料を得た。 調査の結果、ガボンの湿潤熱帯雨林は他地域の類人猿には不可欠と考えられている草本植物種がない特異な環境であることがわかった。チンパンジーとゴリラの採食品目の重なりは80-95%と大きく、両大型類人猿は共に海岸林の利用と、ゾウ散布型の長期結実種および木の葉利用に依存した特異な生態を持っていた。従って、この地域の大類人猿の生態の理解にはゾウも考慮する必要がある。生息密度は、大雨季初期の海岸林では両種を合わせて4.2頭/km^2、大雨季終期の内陸林ではチンパンジー0.57頭/km^2、ゴリラ0.32頭/km^2と推定された。 タンザニアの乾燥疎開林では、チンパンジーの生息密度は、0.15頭/km^2以上と推定された。この地域はチンパンジーにとってかなり乏しい食物環境と言える。しかしながら、ここの環境は小さなパッチの組み合わせにより安定度の高いものと推察された。チンパンジーは広く遊動域を動きまわり、疎開柱の果実や稲科の草本類も利用することによって、こうした地域での生息を可能にしていると思われる。雨季のベットは疎開林にも見られたのに対し、乾季のベットは川辺林とパッチ状に分布する常緑純林に限られた。季節による生息地利用の変化もチンパンジーのこうした環境へ適応を考える上で重要だと考えられる。また、サバンナヒヒが多く生息し、採食品物はチンパンジーと多く重複していた。従って、この地域ではゾウと共にチンパンジーとヒヒの関係も解明すべき点とわかった。 ウガンダではカリンズ森林とキバレ国立公園の2地域において、チンパンジーの行動面における種内変異、特に遊び行動が行動発達におよぼす影響について調査を行った。アカンボウからコドモ期のチンパンジーと他個体との相互交渉を個体追跡法によって観察し、遊びのエソグラムを作成した。 以上の調査から、本研究の目的であるチンパンジーの種内変異とゴリラとチンパンジーの種間相違が明らかになった。即ち、両大型類人猿が同じ地域に生息する湿潤熱帯雨林では、両種の採食品目は大きく重なる。しかし一方で、チンパンジーは湿潤熱帯雨林から乾燥疎開林までの両極端な生息環境で、採食品目や生息密度などの指標で広い種内変異幅を持つ。同種のいかなる差異がこのような違いを産み出したのか、同じ地域に生息する場合の両種の種間関係はどう理解したら良いのかは、生態学的調査と行動学的調査を併用しつつさらに追求して行くべき課題である。さらに、ゾウやヒヒなど他の動物種と大型類人猿との関係も、今後解明すべきテーマであるとわかった。
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