研究課題/領域番号 |
06041067
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹中 修 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (00093261)
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研究分担者 |
バンバン スリョブロト ボゴール農科大学, 理学部, 講師
渡辺 邦夫 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (60158623)
後藤 俊二 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (90093343)
濱田 穣 (浜田 穣) 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (40172978)
藤田 和生 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (80183101)
BAMBONG Sury ボゴール農科大学, 理学部, 講師
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
8,400千円 (直接経費: 8,400千円)
1995年度: 4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
1994年度: 4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
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キーワード | マカク / スラウェシマカク / 進化 / 種間雑種 / 分子進化 / 外部形態 / 種の認知 / ツツガムシ / アカク |
研究概要 |
インドネシア国のスラウェシ島は、生物地理学で東洋区とオーストラリア区を分けるウォーレス線の東側に位置する。有袋類のクスクスや、この島に特異的なバビルサ、アノアが生息することからも解るように特異な動物相を呈する。一方、マカカ属のサル19種は、アフリカ北部のバ-バリーマカクを除けばすべてアジアに生息し、東洋区を代表する動物である。この島は地質時代でもスンダランドとは陸続きになっていないと考えられている。スンダランドとは氷河期で海面が低下したときスマトラやボルネオ島、マレー半島等によって形成される広大な大陸である。したがってスラウェシ島のサルは地質時代のある時にこの島に渡ってきたと考えざるを得ない。しかも日本の本州よりも小さいこの島の中で、外部形態が明瞭に異なる7種に種分化している。 霊長類研究所のグループは1981年以来この島でフィールド調査を遂行してきた。この島の南部のカレンタという保護林でのマウルス(Macaca maurus)の社会生態の継続調査に加え、同種および北端に生息する種のニグラの一時捕獲による形態資料、血液試料の採取、さらにはスラウェシ島の人たちがサルをペットとして飼う習慣があることに着目し、全7種について試料を得、分析を進めてきた。その過程で種間雑種の形成が発見された。スラウェシ島のマカクは全ての種が異所的に生息している。その分布域境界のごく狭い範囲内で雑種が発見されたのである。 そこでスラウェシ島の中央部に分布するトンケアナ(M.tonkeana)と、北部の東西方向に伸びる半島の基部に近いところ分布するヘッキ(M.hecki)との間の雑種に焦点を絞り調査することとした。北部半島の基部の都市であるパル市から40Km〜55Kmのところのクブンコピーと呼ばれる丘陵地帯で捕獲調査を敢行した。94年度の4群30頭に加え今年度は1群20頭の雑種個体と、対照として純粋ヘッキの1群23頭の野生群の一時捕獲に成功した。 調査地では外部形態の写真および計測、手掌紋の採取、身体各部の検査、血液試料の採取、外部および内部寄生虫の検査、精巣のバイオプシー、病理学的検査等多岐にわたる資料および試料を採取した。現地における調査からは、全体として一つの種から他の種への急激な形態的クラインが認められるが、交雑地帯の中心部であっても稀に一方の種に近い特徴ばかりを持つ群がいたり、単純なクラインではなさそうである。 彼らの健康状態では、ほとんどの個体がアナトリコソーマという内部寄生虫やナンヨウツツガムシ等の外部寄生虫におかされていることなどが明らかになった。しかしヘッキの純群の個体も寄生虫に寄生されていたので、雑種個体のみが寄生虫を持つのではなかった。さらに大多数の個体が貧血症状を呈していた。またマラリア原虫も多くの個体の血液中に見いだされた。血漿中のハプトグロビンを欠く個体も8頭見いだされ、マラリア感染による溶血性の貧血が推測された。 交雑群は分布域境界のごく狭い範囲に見いだされる拡散してない原因として彼らの繁殖能力の低下を疑い、ホルモン性状やバイオプシー試料について精子形成を調べたが、異常という結果は出ていない。最もフィールドという悪条件での限られた時間でのバイオプシーで、試料があまり良くなく今後の検討課題とされた。血清タンパク質やミトコンドリアDNAの塩基配列決定と解析、詳細な形態特徴の比較分析等は現在進行中である。 上記の野生群の捕獲調査とは別班として藤田により、種間の嗜好性に関する実験が行われた。ペットのサルを借り、彼らにサルのスライド写真を見せたときの、彼らの注目度を指標にして分析するという方法である。スラウェシマカクのオスは自分と同じ種の個体を強く意識するが、メスはその傾向が希薄であることがわかった。これらは、メスは出自群にとどまり、オスが群れ間を移動するというマカクの母系の繁殖構造を考えると、種の維持機構の一つともいえきわめて興味深い結果である。
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