研究概要 |
1.第一年度(1994年)は,フランス,ドイツ,スウェーデン,スイス,アメリカ合衆国,フィージ-・西サモア,ニュージーランド,オーストラリアなど各国を訪問し,政府関係機関や国際条約事務局,大学・研究所などの研究機関でのヒアリングなどを通じて各国の法制度やその現場での運用の実態,国際的な条約の実施状況などを調査研究した.また,自然保護地域などの現地を視察した. 第2年度(1995年)は,まず,昨年度の調査を通じて得られた知見を整理し,収集した資料等に基づき分析を深めるとともに,なおも理解が困難であるところに重点をおいて,再度の調査を実施した.アメリカ合衆国,フランス,スウェーデンについて,今年度も現地調査を実施した. さらに,調査の対象範囲(国)を拡大して,多角的な検討をおこなった.コスタリカおよびカナダにおいて,生物多様性条約など自然保全に関する諸条約の国内実施の状況や,それらの条約に基づく国際協力の実態について調査を行った.また,ニュージーランド・オーストラリアについても,現地調査を実施した. 2.その結果,各国の法制度のもっている特徴的なところやその運用の実態等に対する理解が深められ,なお十分とはいえないまでも,我が国の法制度と比較した特色や欠陥・問題点等をえぐり出す作業を行うことができた. (1)アメリカ,ドイツ,フランスなどについて,主要な環境法において新たに問題となってきている事項に重点をおいて,最近の環境関連の立法状況を調査した. 70年代はじめに一応の整備がなされた環境法であるが,新たに発生した社会問題に対して必ずしも柔軟に対応できていない.環境監査のような内部的自主規制システムを活用して環境保全を図ろうとする動きや経済的インセンティブを生かした管理手法が導入されてきている. また,アメリカ,ドイツでは,とくにMitigation(環境への影響を緩和する手法)の現状を調査した. (2)アメリカ、ニュージーランド,オーストラリアについては,とくに国立公園,国有林における自然保護,生態系保護,野生生物保護を中心に,現地調査を実施し,法制度の比較検討を行い,新たな知見をえることができた. また,フランス法制についても,自然保護法制の運用実態をかなり具体的に把握することができた. (3)これまでわが国では十分に知られていない国や地域の状況を把握することができた. ニュージーランドでは,1991年に制定された画期的な法律である「資源管理法」についてヒアリングと資料収集をおこなった.今回の調査を通じて,世界でもっとも大胆に環境保全の実験を実施しつつある同国の実情をほぼ把握することができた. また,スウェーデン法制については,「自然保全法」についての新たな情報を入手するとともに,環境行政組織,天然資源管理法の実施状況等を知ることができた.また,スウェーデン自然保護協会(1909年創立の自然保護団体)の活動状況を調査した. オーストラリア法制についても,わが国と法システムや規制に対する考え方が近いことが判明した. (4)自然保護に関する諸条約(世界遺産条約,ラムサール条約,ワシントン条約,ボン条約など)について,各条約事務局を訪問してその実施状況を調査するとともに,南太平洋地域とコスタリカを調査した. 比較的自然環境が良好な状態で維持されている南太平洋地域については,南太平洋地域環境計画,アピア条約,南太平洋環境保護ヌメア条約の状況を把握することができた. 遺伝資源国として知られるコスタリカは,気候変動枠組み条約の下の温室効果ガスの吸収源としての森林の保護管理と,生物多様性条約の下の生物生息域としての森林の保護管理を関連づけた国際協力を望んでいる.実際,米国はそのような事業を含む国際協力を展開している.なお,カナダとコスタリカは,1995年に債務返済スワップ協定を締結してコスタリカの自然保護区の管理を進めている. なお,ワシントン条約第9回締結国会議にも出席し,条約実施の状況を調査し,意見交換をおこなった. 3.現在,この2年間の調査研究の成果を総括し,とりまとめて報告書を作成する作業をすすめている.できれば,国内法制・国際法制を通じた自然保護法制の総合的な研究書として,出版することができればと考えている.
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