研究概要 |
1.タイにおけるC型肝炎ウイルス(HCV)変異株の研究 1)HCV感染症の疫学的解析 タイ北部地域(チェンマイ)において、健常供血者の抗HCV抗体陽性率は2.4%(12/508)であった。一方、静脈内薬物中毒者およびアヘン/ヘロイン中毒者ではそれぞれ97%(59/61)および23%(9/39)であった。 2)HCV遺伝子の解析 健常供血者および薬物中毒者の血清のうち抗HCV抗体陽性のものについて、それぞれ25検体および29検体を任意に選び、RT-PCR法によりHCV遺伝子NS5b領域の増幅を試みた。健常供血者の92%(23/25)および薬物中毒者の83%(24/29)が増幅陽性であった。これらの増幅遺伝子断片の塩基配列を決定し、既報のHCVサブタイプの塩基配列と比較することにより、それぞれの分離株のサブタイプ分類を行った。 健常供血者ではHCV-3aが最も多く(35%)、次いでHCV-1a(13%)、HCV-3b(13%)、HCV-1b(9%)の順であった。既報のサブタイプに分類できない変異株が13%にみられた。薬物中毒者ではHCV-1a(29%)、HCV-3a(25%)、HCV-1b(17%)、HCV-3b(13%)、HCV-6a(4%)であった。このグループでも既知のサブタイプに分類できない変異株が13%にみられた。分子系統樹解析により、これらの変異株は4種類の新しいサブタイプに細分されることがわかった。 3)HCVサブタイプの免疫学的解析 NS4遺伝子領域由来の組換えペプチドC14-1抗原(HCV-1a,-1b由来)およびC14-2抗原(HCV-2a,-2b由来)に対する患者血清中の抗体価測定試験において、HCV-3a,-3b,-6aおよび今回新たに見い出されたサブタイプに属するHCVに感染している患者の血清は、いずれの抗原にも全く反応しなかった。このことより、タイに多く見い出されるHCV-3a,-3bや新サブタイプは、HCV-1a,-1b,-2a,-2bなどと異なる抗原性を有することが明らかになった。 2.インドネシアにおけるHCV変異株の研究 1)HCV感染症の疫学的解析 東部ジャワ地方(スラバヤ)の健常供血者2,234名を肝機能正常者(ALT23IU/L以下)と同異常者(ALT23IU/L以上)に分け、それぞれの抗HCV抗体保有率について調べた。肝機能正常者の抗HCV抗体陽性率は1.3%(6/468)であるのに対し、同異常者では8.5%(22/260)と有意に高値を示した(p<0.001)。 2)HCV遺伝子の解析 上記タイのHCVの場合と同様の方法で、HCVの遺伝子解析を行った。インドネシアの健常供血者ではHCV-2aが最も多く(68%),次いでHCV-1b(16%)であった。我々が近年インドネシアで見出した新しいサブタイプ(HCV-1d)以外にも、別の新サブタイプに属すると思われるものが見出された。詳細な分子系統樹解析の結果、その新サブタイプはHCV-3gと同定することができた。HCV-3gはこの地方のHCVの5%前後を占めると考えられた。 3.フィリピンにおけるHCVの研究 1)HCV遺伝子の解析 マニラ地域の健常供血者および受刑者より得られた抗HCV抗体陽性血清それぞれ23検体および20検体から、RT-PCR法によりHCV遺伝子NS5b領域の増幅を試みた。健常供血者では75%(15/20)、受刑者では74%(17/23)が増幅陽性であった。上記増幅陰性者11名のうち9名は5'非翻訳領域の増幅も陰性であり、感染からの回復が示唆された。 現在、増幅遺伝子断片の塩基配列を決定し、サブタイプ分類を行っているところであるが、HCV-1aと-1bがほぼ同数で最も多く、一方HCV-3a,-3bは少ない傾向がみられ、タイやインドネシアとは異なったサブタイプ分布状況を示すことが明らかになりつつある。今後も解析を継続する予定である。
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