研究分担者 |
堀田 和彦 九州大学, 農学部, 助手 (00192740)
仲地 宗俊 琉球大学, 農学部, 助教授 (70180312)
森山 日出夫 九州大学, 留学生センター, 助教授 (40038287)
八木 宏典 東京大学, 農学部, 教授 (00183666)
永木 正和 鳥取大学, 農学部, 教授 (90003144)
大原 興太郎 三重大学, 生物資源学部, 教授 (70024586)
長 憲次 九州大学, 名誉教授 (90038175)
岩元 泉 九州大学, 農学部, 助教授 (10193773)
杉山 道雄 岐阜大学, 農学部, 教授 (40021696)
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研究概要 |
1985年以降のベトナムにおける米生産は1986年に始まったドイモイ(刷新)政策のもとで米生産が躍進し,長い停滞から一転して1989年には米輸出国に転じ,現在では,200万tonを上回る輸出力をもつ世界第3位の輸出国となるに至っている。この間の約800万tonにのぼる生産増加分の64%は単収の上昇,36%は年間作付延べ面積の増加によるものであった。また,こうした生産力の躍進をもたらしてきた要因は,直接には,多収性改良品種の普及,肥料・農薬等の投入の増加,水利条件に関する改良事業の一定の進展,生産増大への農民の熱意と労働効率の向上等によるものであった。 全国を紅河デルタ,メコン河デルタ,およびその他地域の3地帯に大別してみると,1985年から1994年までの米生産量の伸びの70%まではメコンでの伸びによるものであって,紅河デルタの場合には,単収の上昇はメコンと同様に著しかったものの,作付面積の増加は全くみられず,1985年-94年の生産増加は1.33倍にとどまり,人口周密な同地域内の消費の増加にかろうじて見合う程度の増加しかもたらされていない。さらに,紅河およびメコン河両デルタ以外の「その他地域の場合には,この期間の生産増加は需要の増加分を下回る1.23倍,平均年率2.5%にとどまった。このようにして,1985年以降の米生産の増加は全てメコン河デルタでの増加に負うものであって,いまやベトナムの米総生産量の52%までがメコン河デルタ地域だけで占められているのが現状である。 1994年からの国内米価の上昇に伴ってメコンの生産増加が経済的にさらに促進され,同地域の生産シェアがさらに高まっていくことが予想されることについては前項で指摘した。その場合,メコン河デルタ地域での生産増加はこれまでと同様に,単収の増加と2期作・3期作の普及による年間作付延べ面積の拡大の2つの経路で追求されていくことになろうが,これらのいずれの方向も,すでに限界に近づいているように考えられる。 第1の単収の増加は,これまで多収性改良品種の普及,化学肥料・農薬の増投,著しい厚播き湛水直播とそれによる多数の茎数の早期確保等の要因を中心にしてもたらされてきたのだが,水利施設の開発整備の遅れとそれに対応した通し深水栽培ないし掛け流し灌漑という技術条件のもとで,雨季作平均5-6ton/ha,乾季作平均6-7ton/haという現状水準からの大幅な単収の引き上げは至難な状況にあるといえる。現状においてもすでに地力の低下による収量低下が懸念されており,さらに現状ですでに肥効の低下が確実に進行してきている。肥効の低下を避けながら肥料の投入量を増加させ単収をさらに引き上げていくためには,品種の改良と各圃場レベルでの灌排水管理の徹底が可能となるような水利条件の一層の整備が必要であろう。 地力の低下や肥効の低下という問題だけではない。多肥化は必然的に農薬のいっそうの多投入を必要とする。その農薬の散布回数はMy-Dong地区の場合には,現在すでに,各作期ともに殺虫剤3回,殺菌剤4,5回,除草剤1回,合計8,9回、3期作での延べ回数では年間24回から27回という驚くべき頻度で,まさに「農薬漬け」稲作という実態となっているのである。現状のもとでも,人々が生活用水のすべてをそれに依存している河川やキャナルの水の水質悪化が懸念されるところであるが,将来,2期作,3期作の実施面積がさらに拡大し、第2次水路に導き入れられた用水がそれぞれの地域内で反復利用されていくようになれば,水質の悪化はさらに深刻なものとなっていくであろう。 2期作,3期作による作付延べ面積の拡大方向での生産増加に対しては別の問題点も伴う。メコン河デルタ全体の現状の作付集積率は約1.5回で,2期作,3期作の普及は用水の特に豊富なベトナム領内でのメコン河中・上流域の一部の地域に限られている。これらの中・上流域での2期作,3期作の拡大は,下流域での乾季の河川流量の減少と海水の侵入による塩害の拡大を招くことになる。
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