研究課題/領域番号 |
06041088
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
新田 栄治 鹿児島大学, 教養部, 教授 (00117532)
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研究分担者 |
CHAIKANCHIT チャリット コンケン大学, 人文社会科学部, 講師
西谷 大 国立歴史民族博物館, 考古研究部, 助手 (50218161)
CHALIT Chaik コンケン大学, 人文・社会科学部, 講師
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
3,800千円 (直接経費: 3,800千円)
1995年度: 1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
1994年度: 2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
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キーワード | 製塩 / 製鉄 / 環境変動 / 森林破壊 / 社会変化 / 民俗考古学 / 塩 / 自然破壊 / 製塩遺跡 / 社会再編 |
研究概要 |
タイには伝統的に継承されてきた技術によって行われている製鉄と製塩がある。これらの伝統的製鉄と製塩は、考古学上の発掘調査によって得られたデータの理解に貴重な情報を与えるものである。東北タイ各地の残る伝統的な製塩と、北タイ一カ所だけ残る製鉄の記録と技術および社会的な意義について現地調査・研究を実施した。 (平成6年度) (1)ナコーンラ-チャシ-マ-県ブアヤイ群ドンレン村の製塩を中心に、東北タイ各地の伝統的製塩の現地調査を実施し、その記録をとるとともに、製塩方法の技術的問題と社会的問題とを解明した。 (2)タイで行われている製塩方法には、(1)乾季に地表面に現れた塩の血漿を土ごとかき集めて、採鹹槽に入れた後、水をかけて鹹水を得、煎熬する塩華製塩(2)地下の塩水層から揚水した鹹水を煎熬する塩井製塩(3)海水を塩田に導水し、自然乾燥によって塩の結晶化を行う海塩製塩がある。伝統的製塩は前2者である。 (3)塩華製塩は東北タイで広く行われている。塩華製塩には、採鹹方法によって(1)ピット式と(2)地下槽式の2つに分けられる。煎熬方法はいずれも、トタン板などの鉄板で作った鉄鍋を使う煎熬かまどによる。1991年に考古学発掘調査によって出土したノントウンピーポン遺跡の製塩遺構は、ピット式採鹹と同じものであることが確認された。 (4)塩華製塩は森林破壊に起因する燃料不足が最大の原因となって、また、高度経済成長に伴う社会変動、とりわけ若年労働力の都市への移動により、消費者の需要があるにもかかわらずすでに消滅しかかっている。 (5)塩井製塩は広大な塩田に鹹水をポンプ揚水して大規模に行われている工業塩生産と、製塩をとりまく環境変動から塩井製塩に転換した食塩生産とがある。製塩の近代化には政府の指導が大きな役割を果たしている。 (6)塩井製塩も、塩華製塩と同様に燃料不足が深刻な問題となっている。 (7)製塩の場合には、少なくとも1700年間にわたる伝統的技術が保存されてきた。近年の環境変動と社会変動によって消滅間近である。 (平成7年度) (1)ウッタラデイット県トンセンカン群ナムビ-村での伝統的製鉄および刀鍜台の現地調査を実施し、記録をとり、技術的および社会的問題を解明した。 (2)資源の枯渇が大問題となっている。鉄原料(採掘禁止の鉄鉱石、枯渇した砂鉄)の枯渇のために、鉄原料はかつての製鉄遺跡から採集した鉄滓を使う。また森林破壊のために、燃料。還元剤の木炭が入手難となっている。 (3)鉄原料がかつての鉄原料とは異なる。そのため製鉄炉の構造に違いがあり、伝統は変化している。それでも新田が1990年に発掘したバンドプロン製鉄遺跡で出土した製鉄遺構と共通する装置が多く、考古学資料との比較研究に大変大きな意義があった。 (4)生産された鉄の用途は刀剣材料に限定されているため、一般的な需要はない。将来の生産の拡大はありえない。唯一残る継承者が老人であり、製鉄技術の伝統保持には困難な問題がある。製塩よりも対社会的な意義ははるかに少ない。最大の問題は原料の枯渇である。 (5)製鉄においても、環境変動と社会変動が技術継承の障害となっている。 (6)刀鍜台は、観光政策とタイ社会の伝統によって維持されているが、これ以上の需要増は望めないが、細々とした需要は継続しているので、現代鉄に転換して技術伝統は継承される可能性がある。 製塩と製鉄をとりまく状況は、環境破壊と社会変動によって悪化するばかりである。タイ社会がもはやこれらの伝統的な技術によって生産される塩や鉄を必ずしも必要としないようになっている。
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