研究課題/領域番号 |
06041123
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
今井 弘民 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝研究系, 助教授 (10000241)
|
研究分担者 |
CROZIER R.H La Trobe Univ., 遺伝部門(オーストラリア), 教授
TAYLOR R.W. CSIRO研究所, 昆虫部門(オーストラリア キャンベラ), 名誉研究員
緒方 一夫 九州大学, 熱帯農学研究センター, 助手 (40224092)
平井 啓久 京大霊長類研究所, 進化系統部門, 助手 (10128308)
山本 雅敏 京都工芸繊維大学, 繊維学部, 助教授 (10142001)
CROZIER Ross H. La Trobe University, Australia
高畑 尚之 総合研究大学院大学, 教授 (30124217)
CROZIER R.H. オーストラリア La Trobe Univ., 遺伝部門, 教授
|
研究期間 (年度) |
1994 – 1995
|
研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
|
配分額 *注記 |
9,100千円 (直接経費: 9,100千円)
1995年度: 4,500千円 (直接経費: 4,500千円)
1994年度: 4,600千円 (直接経費: 4,600千円)
|
キーワード | 染色体進化 / 最小作用説 / アリ類 / 系統進化 / FISH法 / rDNA / テロメア / ミトコンドリア / 昆虫 |
研究概要 |
本学術調査は、研究代表者今井が提唱した真核生物の染色体進化に関する新学説「最小作用説」(Imai et al., 1986)の実験的検証を行うため、オーストラリア産の最も原始的なアリ類の一種で染色体的に著しく分化した(2n=2-84)キバハリアリ(Myrmecia)を用いて、分子遺伝学、細胞遺伝学および系統分類学の諸側面から学術的に調査研究し、染色体進化のメカニズム、法則性、生物学的意味等の解明を目的としている。 キバハリアリはオーストラリア大陸東部山岳地帯を中心に南西部丘陵地帯まで広範囲に生息している。本調査ではできるだけ多くの種の染色体を調査するため、調査地域を南北に分割し、平成6-7年度の2ケ年に渡って調査を行った。 平成6年度は11月17日から12月21日までの約一ケ月間、キャンベラを拠点にその周辺、タスマニア、及びエスペランサの南部諸地域を調査した。染色体数が2n=2から2n=76まで変異する17種26コロニーのキバハリアリについて、核グラフ法による核型進化解析の他に、リボソームDNA(rDNA)、テロメア、およびミトコンドリアの分子遺伝学的調査を行った結果、次の4点が明らかになった。 (1)キバハリアリ類は全体としてセントロメエア開裂により染色体数を増加する方向(2n=2→76)に進化している。(2)rDNA保有染色体の数が染色体数の増加(2n=2→76)と共に増加する(2→19)現象、即ち「rDNAのゲノム内拡散現象」が発見された。(3)アリ類のテロメアがほ乳類のTTAGGG型とは異なるTTAGG型で、染色体の形や大きさを問わず染色体の両末端のみを被覆し、セントロメア、ヘテロクロマチン部位及び介在部に存在しないことがわかった。(4)ミトコンドリアの塩基配列に基づいた分子系統学的解析の結果が、核型分析から得られた系統関係と整合した。(1)は最小作用説により導かれる核型進化の方向性(セントロメア開裂による染色体数の増加)とよく一致している。また、(2)のrDNAのゲノム内拡散現象が、セントロメア開裂を主要因とした不可逆的変化であることが明らかになった。さらに(3)は、セントロメア開裂で裸出した染色体末端がテロメラーゼにより新しいテロメアが合成され(テロメア新生)被覆される可能性を強く示唆しており、最小作用説は分子レベルでの強力な実験的論拠を得たことになる。これら平成6年度の調査結果は、平成7年に詳細な解析が行われ、解析結果は3編の論文にまとめ学術雑誌に発表または投稿中である(研究業績参照)。 平成7年度は、平成7年12月10日より平成8年1月10日にかけて、オーストラリア東部山岳地帯を北端の熱帯圏に位置するケアンズから温帯の首都キャンベラまで走行総距離6千kmを縦走しながらキバハリアリ類の採集調査を行った。その結果、20種43コロニーのキバハリアリ類について染色体標本作成と分類学的データを得ることができた。 本学術調査と過去20年間に蓄積された核型データを合わせると、合計50種のキバハリアリの染色体が観察されたことになる。現在これらの核型分析を精力的に行っており、最終的には核グラフ法を用いて核型進化の全体的傾向を詳細に解析し、形態分類から導かれたキバハリアリ類の系統進化と比較考察する予定である。 さらにこれらの染色体調査と平行して、平成6年度に得られたアリrDNAのプロープpMc.r2をさらに精製してノンコーディング部位を削りpMc.r2SB0.5プローブを得ることに成功し、これを用いてアリ28SrDNAの全塩基配列(5480塩基)を決定することに成功した。これをアリ類の基準系として、他のアリ類との類縁関係を分子レベルで比較することが可能になった。以上、本学術調査により、最小作用説はより強固な実験的論拠を得ることができた。
|