研究分担者 |
游 修齢 浙江農業大学, 教授
中井 弘和 静岡大学, 農学部, 教授 (20026610)
プーミィ インタバンヤ ラオス農務省, 農業研究センター, 主任研究員
ソンクラン チトラコン タイ, パトムタニ稲研究所, 部長
山岸 博 京都産業大学, 工学部, 助教授 (10210345)
米澤 勝衛 京都産業大学, 工学部, 教授 (90026542)
森島 啓子 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 教授 (70000247)
福田 善通 農林水産省北陸農業試験場, 主任研究官
佐藤 雅志 東北大学, 遺伝生態研究センター, 助教授 (40134043)
島本 義也 北海道大学, 農学部, 教授 (00001438)
上埜 喜八 東京農業大学, 生物産業学部, 講師 (30223481)
PHOUMI Inthapanya National Agricultural Research center, Laos Researcher
YU Xulin Zejiang Agricultural University, China Professor
ソークラン チトラコン タイ, パトムタニ稲研究所, 部長
プーミィ インタパンヤ ラオス農務省, 農業研究センター, 主任研究員
ブーミィ インタバンヤ ラオス農務省, 主任研究員
チャワワン ブティヤノ タイパトムタニ稲試験場, 研究員
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研究概要 |
本研究は,熱帯アジア地域における野生稲および栽培稲の集団動態および遺伝構造の経時変化の調査により,稲の起源と伝播の様式を明らかにすることを目的に1994年(平成6年)度から3年間行ったものである.得られた結果の概要を以下に示す. 1.メコンデルタ一帯には野生稲の存在が知られていたが,その遺伝構造や動態にかんするデータはなかった.前回のプロジェクト(国際学術研究:熱帯における稲遺伝資源の生態・遺伝学的調査(第4次),代表者:佐藤洋一郎)では1992年に同地域の野生稲の予備的調査を行っており,その時の調査データとの比較から,集団動態を明らかにした.また,DNA分析の技術を応用して遺伝構造の詳細を検討した.メコンデルタ一帯では,他の地域同様,遺伝資源の急速な喪失が進行しており,とくに多年生の系統でその傾向が著しいことがわかった.この傾向は他地域における傾向とは異なっている.また,同地域の野生稲は多年生でかつジャポニカ型の遺伝子型を有することがわかった.これは従来にはまったく知られていなかった事実である. なお前回の調査で行ったカンボディア調査では,1年生集団が多く観察されている.これらの事実を総合すると,熱帯アジアでは,多年生集団が全域に「広く薄く」分布し,1年生集団はインドシナ半島の雨季・乾季のはっきりした地域に高密度で分布することがわかった. 2.ラオス一帯(メコン中流域)の野生稲についても詳細な検討を加えた.従来までの知見に加えて明かになったことは以下のようである. ア)ラオスにおける野生稲はビエンチャン付近が北限とされていたが,96年の調査によって北西部ホウエイサイ周辺(北緯20度)でもその存在が確認された. イ)ラオスの野生稲もまた,急速な喪失に見舞われている.当初われわれはそれが都市近郊の都市化によるものと考えてきたが,それがラオスにも及んでいることを考えると,それだけではなく地球全体の環境変動を考慮に入れる必要があるかもしれない. ウ)ラオス北部,ルアンナムタ周辺では,1年生の属すると思われる野生稲の存在を,複数の農民や関係者から聞き取った.しかし現地ではその集団を確認することができなかった.同地域に,真に野生稲が存在するか否かはきわめて興味深い問題であり,今後機会をみて調査したい. 3.中国ではここ2,3年の間に発掘調査が急ピッチで進行し,今までに知られていなかった事実が次々と発見されている.中でも数千年前の野生稲種子発見の報告は稲の起源に関する知見を書き換える可能性すらある.そこで中国における最近の稲作遺跡からの出土遺物の検討と研究連絡のため,今年度緊急に中国調査を行った.中国研究者との情報交換および遺物の検討の結果,約8000年前に長江の中流域で稲の最初の栽培化が始まった可能性が示唆された.今後,中国および熱帯アジア地区を総合して,出土遺体のDNA分析などを加えた総合調査が必要と考えられる. 4.タイおよびラオスの4つの集団について,その自生地の保全の試みを行った.4集団とも多年生集団で1年生集団はなかったが,面積はどの集団とも1haを超えており,自生地としては十分な条件を備えていた.これらの集団については,まず現地研究者および関係当局と協議を行い,自生地として保全することについて合意を得た.ついで,本調査の範囲内で(年1ないし2回の調査を行った),集団の遺伝構造および動態の調査を行った.遺伝構造については,葉および種子から抽出したDNAを用いて調査した. 継続調査の結果,集団の動態としてはどの集団にも目立った変化は現われず,この4集団については深刻な遺伝資源喪失の現象は起きていないと思われた.ただし,遺伝構造の面から見ると,特定の遺伝子の遺伝子頻度には変化がみられた.ただしこの変化は,いわゆる機会的浮動にすぎないか,または定方向的変化であるかは明らかではない.
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