研究課題/領域番号 |
06041126
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
山本 紀夫 国立民族学博物館, 第5研究部, 教授 (90111088)
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研究分担者 |
シュレスタ ハリ ネパール農業技術研究所, 研究員
古川 彰 中京大学, 社会学部, 助教授 (90199422)
結城 史隆 八千代国際大学, 政経学部, 教授 (80210582)
稲村 哲也 愛知県立大学, 文学部, 教授 (00203208)
土屋 和三 龍谷大学, 文学部, 助教授 (00217332)
本江 昭夫 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教授 (30091549)
岩田 修二 東京都立大学, 理学部, 教授 (60117695)
ハリ シュレスタ ネパール農業技術研究所, 研究員
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
15,800千円 (直接経費: 15,800千円)
1996年度: 4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
1995年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
1994年度: 6,600千円 (直接経費: 6,600千円)
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キーワード | ネパールヒマラヤ / シェルパ / トランスヒューマンス / 環境利用 / 草地 / 森林 / 埋没腐植土層 / 垂直統御 / ヒマラヤ / 熱帯高地 / 草地・森林利用 / 家畜飼養 / 農耕技術 / 環境認識 / 多民族間関係 / ネパール / シェルパ族 / 環境 / 牧畜 / 農耕 |
研究概要 |
本研究では、ネパール・ヒマラヤにおける多様な生業活動の基盤として重要な草地および森林の利用に焦点をあて、山地住民による環境利用の動態を調査研究し、山岳地域における環境利用の「ヒマラヤ的」モデルを構築しようとすることを目的として3年間にわたって、現地調査を重ねてきた。一般に、山岳地域では社会の規模や構造が環境条件におおきく影響を受けるので、その社会を正しく理解するためには当該社会における人間と環境との関係を明らかにすることが重要となる。実際に、ネパール・ヒマラヤでは土地の高度な利用が大幅な人口増加を可能にしてきたが、近年、過度の土地利用が森林の減少、土壌の浸食などの環境破壊をひきおこし、生業経済の変化や低地部への移住などの新しい社会問題を生じさせている。したがって、主として草地を利用している高地(牧畜社会)と森林を利用している丘陵地(農耕社会)で植物学や草地学の専門家の協力を得て環境利用の動態に関する民族学的な比較調査を実施し、山地住民に固有の文化と社会の特質を総合的に解明することにつとめた。 具体的な調査フィールドでは、ネパール山岳地域にあるソル地方のジュンベシ谷という比較的狭い地域に焦点をあて、全員が同一フィールドで調査することとした。平成6年、7年度は(1)土壌、植生等自然環境に関する基礎的調査、(2)農耕、牧畜を中心とする草地・森林利用の実態調査、(3)土地利用、土地所有、地域経済、居住構造、親族構造、多民族間関係等の文化人類学的調査によって調査地域の基礎データの収集をおこなうとともに、異なる専門分野間の討議を重ねた。 8年度は、ネパール・ヒマラヤ全体を視野にいれた分析と総合的な把握を目的として、集約的な調査を東部高地で継続すると共に、比較条件を勘案しジュンベシ谷の周辺地域、東部中低地、中部丘陵など広域の踏査を実施した。(1)前二年の集約調査で得られた草地と森林の利用を中心とした環境利用の資料を地域を広げて調査することによって、その普遍性、地域差を比較・検証した。(2)高地および丘陵地域における環境利用の「ヒマラヤ的」モデルの構築の可能性を示唆し得た。(3)高地および丘陵地域における固有の文化とその特質および多様性についてより多くの知見を得た。 これらの調査研究によって、1)東部高地地域における植生・土壌に関する自然科学的知見により地域の生業形態や社会構造の自然との共生関係を記述分析することができた。とくにジュンベシ谷という谷を生態系のユニットとして捉えた場合、そこでの生活世界を自然環境利用との関係で立体的に捉え得る視点が与えられたことは今後の研究の展開にとっても重要である。 2)民族関係の複雑なネパールにおける民族間関係、とりわけ環境利用に関わる共生関係が具体的に明らかにされた。とりわけ民族間関係を象徴的に表す、牧畜に関わる祭祀ヤルジャン儀礼の詳細な調査を行い得たことにより環境利用の社会的側面のダイナミックな関係があきらかにされた。ちなみに同儀礼は地域の牧畜生活との関わりで重要な儀礼であるにも関わらず、これまでまったく報告例はなく最初の報告例である。これらの知見は「ヒマラヤ的」モデルを示唆している。 本研究では全員が同一のフィールドに同時に入る期間を設け調査内容に関わる討議を行った。とりわけ、自然科学と社会科学の共同調査という方法のメリットは人間の営為としての環境利用、結果としての環境問題というたいへん複合的な現象を解明するには有効であるだけではなく、不可欠である。結果として自然科学的基礎資料に基づいた、環境に対する人間の多様な文化的営為の把握が可能となった。こうした点から、人間による環境の利用という総合的な研究課題に関し、学際的でより実質的な調査を行い、また研究者間で大きな学問的刺激を共有することができたことは本研究の大きな成果であった。それらの成果はすでに『TROPICS』(1996)の特集号における一連の論文や『季刊民族学』(1996-97)の連載として報告されはじめている。
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