研究課題/領域番号 |
06041137
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
松島 善治 東京医科歯科大学, 医学部・脳外科助教授 (20134679)
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研究分担者 |
銭 亮 東京医科歯科大学, 医学部, 脳外科大学院生
青柳 傑 東京医科歯科大学, 医学部, 脳外科講師 (40134704)
TIAN Quain Postgraduate course, Student
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研究期間 (年度) |
1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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キーワード | モヤモヤ病 / モヤモヤ症候群 / モヤモヤ病類似疾患 / レプトスピラ / 遺伝的素因 / 武漢同済病院 / 中華人民共和国 / 北京神経外科研究所 |
研究概要 |
中国で実際の症例を見、血管撮影を見るまでは中国のモヤモヤ病あるいはモヤモヤ病類似疾患は、恐らく日本で言うこところのモヤモヤ病とは似て非なるものであり、別の存在であろうと考えていた。と言うのは、両国のモヤモヤ病あるいはモヤモヤ病類似疾患には以下に下示すように疫学的に明かな相違があったからである。即ち、男女比は日本では女性が多く、中国では男性が多い、疾患型に関しては虚血型は日本ではほとんどの小児例がこれであるのに対し中国では成人にも小児にも多く、出血型は日本では成人例であるのが普通であり、中国では成人でも小児でも同じぐらいの頻度で見られる。発症年齢は日本では5歳以下の発症例がかなり多く、予後が悪いのであるが、中国では5歳以下の症例は殆ど報告されていない。等である。 しかし、実際に現地の医療事情、社会事情を見ると、日本と格段の違いが有り、日本にいては思いも付かない中国の特殊事情に依って、疾患像がかなり歪められていることがわかった。すなわち、中国では(1)一般庶民はかなり貧しく、交通事情も悪く、軽症では医療機関に来ることが無い。従って重篤な症状のある患者だけが、外来を訪れ、入院の対照になり、統計の対照となる。(2)たとえば医療機関に来ても、経済的理由で十分な検査を受けることが出来ない。従って、確定診断に不可欠な脳血管撮影を行えないため、軽症の場合診断が付かない。(3)一人しか子供を持つことが出来ない状況で、女子が等閑にされることが多い。従って放置されたり、病院に来ても診断のために金をかけたがらない。(4)患者の経過を追おうとしても電話の普及率が低く、一般家庭では電話が無いため、連絡のとりようが無い。従って、臨床的長期観察は事実上不可能である。(5)検査資料(レントゲンフイルム等)は多くの機関で患者の財産として患者が管理しているために、十分に患者の資料を集めることが難しい、等である。この様な様々な悪条件下にある中国の患者を、難病指定を受け、殆ど経済的制限の無い日本の患者とを疫学的に比較することは、あまり意味の無い事がわかった。 そこで、日本のモヤモヤ病の診断基準であり、客観的な放射線学的な所見を中国の症例について検討すると、武漢におけるレプトスピラによると思われるモヤモヤ症候群においても、北京神経外科研究所の彼らのいわゆるモヤモヤ病においても、完全に日本の診断基準を満足するものであり、そのそれぞれの所見の細部に付いても日本のモヤモヤ病で観察される所見と酷似している事が明かとなった。そしてこれらの所見は、いわゆるモヤモヤ症候群とされ、今日までに除外疾患とされている動脈硬化、髄膜炎、腫瘍、ダウン症候群、レックリングハウゼン病、外傷、放射線照射などで観察される放射線学的所見とはやや趣を異にしているのである。しかも、中国ではこれらの症例がかなりおおきな疾患群として存在することが明かである。 ここでもう一度、武漢におけるレプトスピラ性のモヤモヤ症候群と北京神経外科研究所のいわゆるモヤモヤ病とを比較すると、両者は疫学的に極めて類似していることがわかる。これらの二群は類似した社会環境の中で、極めて類似した症候が記載され、どちらも近年減少傾向にあり、しかも放射線学的所見が酷似しているのであるから、両者はきわめて近似した疾患であることが考えられる。両者の明かな相違点は、一つは北京神経外科研究所のいわゆるモヤモヤ病に於ては武漢と異なり、レプトスピラ罹患の有無が検討されていないことであり、このことは今後検討されて行くべき問題である。もう一つの違いは武漢のレプトスピラによるモヤモヤ症候群においては北京神経外科研究所のいわゆるモヤモヤ病に比較してやや症状の出現が多彩であることである。このことは、前者がレプトスピラ血管炎の研究からスタートしたのに反し、後者は脳血管撮影所見から患者を選んでいることから、前者にはレプトスピラ感染によるによる直接的な中枢神経傷害も含まれるということで理解できると思われる。 この様に考えて来ると、中国に於けるモヤモヤ病またはモヤモヤ病類似疾患と日本のモヤモヤ病とは現象的には一連のものであり、日本のモヤモヤ病は何等かの遺伝的素因の上に何等かの外因が加わって発生すると考えられる一方、中国に於けるモヤモヤ症候群は外因がより大きな役目を果たしていると考えられ、この様な外因とるとなりうる一疾患としてレプトスピラ・ポモナの感染があると結論づけられると思われた。
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